「最近、電気代が上がって不安…」「日本の電力供給ってこれから大丈夫なの?」そんな悩みを感じている方は多いのではないでしょうか。再生可能エネルギーが注目される中、今まさに日本の電力システムを支える鍵として期待されているのが「アグリゲート」という仕組みです。
2026年2月現在、日本では家庭の蓄電池や電気自動車(EV)などを束ねて活用する新しい電力ビジネスが本格化しています。私たちの暮らしをより安定させ、環境にも優しく、さらにはお財布にも嬉しい未来を作るアグリゲート。その仕組みと最新の動向を初心者の方にもやさしく解説します。
アグリゲートとは?

画像出典:資源エネルギー庁
アグリゲート(Aggregate)とは、直訳すると「集約する」「束ねる」という意味です。電力の世界では、各地に点在する小さなエネルギー源(家庭の太陽光パネルや蓄電池、工場の設備など)をIoT技術でひとまとめにし、あたかも一つの大きな発電所のように制御する仕組みを指します。
小さな電力を束ねて「一つの大きな力」に変える仕組み
アグリゲートの本質は、バラバラに存在する小さなリソースをネットワークでつなぎ、効率的に活用することにあります。これまでは、個々の家庭の太陽光発電や蓄電池は、その家の中だけで完結するものが主流でした。しかし、アグリゲートによってこれらを地域全体で共有・制御することで、電力不足の際に助け合ったり、余った電気を有効活用したりすることが可能になります。
「司令塔」となるアグリゲーターの役割
この仕組みを動かす中心的な存在がアグリゲーターと呼ばれる事業者です。アグリゲーターは、多くの需要家(電気を使う人)と契約し、電力会社からの要請に応じて「今は電気を節約してください」「蓄電池から放電してください」といったコントロールを行います。高度なAIや予測技術を駆使して、街全体のエネルギーのバランスを取る「電力の司令塔」といえる存在です。
仮想発電所(VPP)として機能する最新技術
アグリゲートによって生み出される仕組みは、VPP(バーチャル・パワー・プラント:仮想発電所)とも呼ばれます。物理的な巨大発電所を建設するのではなく、デジタル技術によって既存の設備を束ねることで、発電所と同等の機能を果たします。2026年度からは、一般家庭のような小規模な設備もこのネットワークに参加しやすくなる制度改正が進んでおり、私たちの暮らしにぐっと身近なものになっています。
アグリゲートのメリット

画像出典:資源エネルギー庁
アグリゲートが普及することで、日本の電力事情には劇的な変化が訪れます。それは単に「停電が減る」というだけでなく、地球環境の保護や、私たち一人ひとりの家計にも直結する大きなメリットをもたらします。
再生可能エネルギーを100%使い切る社会へ
アグリゲートの最大のメリットは、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの有効活用です。再エネは天候によって発電量が変動しやすく、余りすぎると「出力制御(発電を捨てること)」が発生してしまいます。アグリゲートがあれば、電気が余った時に一斉に蓄電池へ充電し、足りない時に放電することで、貴重なグリーンエネルギーを無駄なく使い切ることができます。
災害時の停電リスクを減らす「地域の絆」
アグリゲートは、災害に強い社会づくりにも貢献します。大規模な発電所に依存しすぎると、そこが事故を起こした際に広範囲で停電が発生します。しかし、地域に分散した蓄電池やEVをアグリゲートでつないでおけば、一部の系統が遮断されても地域内で電力を融通し合うことが可能です。自分たちの街の電気を自分たちで支える、レジリエンス(回復力)の高い暮らしが実現します。
お得に電気を使える!家計への嬉しい影響
私たち個人にとっても、経済的なメリットがあります。アグリゲートに参加し、電力需給が厳しい時に節電(デマンドレスポンス)に協力したり、蓄電池の制御をアグリゲーターに任せたりすることで、報酬(ポイントや電気料金の割引)を受け取れる仕組みが整いつつあります。2026年現在は、スマートフォンアプリで手軽に参加できるサービスも増えており、賢く節約しながら環境貢献ができるようになっています。
デマンドレスポンスについては、こちらの記事も参考にして下さい。
アグリゲートの導入事例
電力のアグリゲートは、もはや理論上の概念ではなく、日本のエネルギー市場の至る所で実際に活用されています。これまでバラバラに存在していた太陽光パネル、工場の設備、家庭の蓄電池などを最新のデジタル技術で一つの「大きな発電所(仮想発電所)」のように制御することで、脱炭素社会の実現と経済性の両立が進んでいます。ここではアグリゲートの3つのタイプごとに、国内企業で実際に展開されている代表的な活用事例を解説します。
再エネのFIP制度への対応・最大化(再エネアグリゲーション)
太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候によって発電量が大きく左右されます。現在の「FIP制度」では、発電事業者は事前に発電量を予測して計画を立てる必要があり、実際の発電量とのズレ(インバランス)が生じるとペナルティ料金が発生します。そこで、アグリゲーターがAIを駆使して高度な予測を行い、複数の発電所をまとめて運用することで、このリスクを抑えつつ売電収益を最大化しています。
エナリス
エナリスは独立系アグリゲーターの先駆けとして、膨大な気象データと過去の発電実績を組み合わせたAI予測モデルを運用しています。多数の太陽光発電所を束ねることで、個別の地点で発生する予測誤差を群全体で相殺し、インバランスコストの低減を実現しています。
出典:株式会社エナリス
東芝エネルギーシステムズ
東芝エネルギーシステムズは長年培ってきた電力系統の制御技術を活かし、再エネアグリゲーションサービスを提供しています。独自の高精度な気象予測技術をベースに、市場価格が変動する卸電力取引所での最適な売電戦略を立てることで、発電事業者の収益向上を支援しています。
日本工営
日本工営はコンサルティングとエンジニアリングの知見を活かし、蓄電池を活用した再エネアグリゲーションに強みを持っています。発電した電力をそのまま売るだけでなく、蓄電池に一時的に貯めて「より高い時間帯」に売電する制御を行うことで、エネルギーの価値を最大化しています。
出典:日本工営株式会社
工場やビルの節電・省エネ(デマンドレスポンス:DR)
デマンドレスポンス(DR)とは、電力の需要と供給のバランスが厳しくなった際に、使う側の電力量を調整することです。アグリゲーターが工場やビルの空調・照明・生産設備を遠隔で自動制御し、無理のない範囲で一時的に電気の使用を抑えることで、電力不足を防ぐとともに、協力した企業は「報酬(調整力の対価)」を受け取ることができます。
アズビル
アズビルはビルオートメーションの技術を活用し、大規模ビルや工場の空調を自動で制御するDRサービスを展開しています。快適性を損なわない範囲で数分単位の電力調整を行うことで、建物自体を「仮想的な資源」として活用しています。
出典:アズビル株式会社
ローソン
ローソンは全国に展開する店舗網を活かしたアグリゲーションを行っています。電力需給が逼迫した際、本部の指令により各店舗の空調設定温度を自動で変更したり、冷凍・冷蔵ショーケースのコンプレッサーを一時停止させたりすることで、店舗群全体で大きな節電効果を生み出しています。
出典:株式会社ローソン
エナリス
エナリスは法人向けに、DRによる電力コスト削減と報酬獲得のスキームを広く提供しています。特に電力需給調整市場への参入を支援しており、顧客企業の設備が持つ「電気を減らす能力」を束ねて、国全体の電力安定供給に寄与しています。
出典:株式会社エナリス
蓄電池・EVの統合制御(VPP)
各家庭や事業所に設置された「蓄電池」や「電気自動車(EV)」をネットワークで繋ぎ、全体で一つの発電所のように機能させるのが「VPP(仮想発電所)」の核となる技術です。太陽光で発電した電気が余る昼間に充電し、需要が増える夕方に放電することで、送電網(系統)への負荷を減らし、効率的なエネルギー循環を作り出します。
Nature Japan
Nature Japanはスマートリモコン「Nature Remo」や、蓄電池・EVとの連携デバイスを通じて、一般家庭を巻き込んだVPPを展開しています。市場価格が安い時間帯に自動で充電を開始するなど、スマホアプリを通じて消費者が楽しみながら節電・貢献できる仕組みを構築しています。
出典:Nature株式会社
エリーパワー
エリーパワーは安全性に優れた大型リチウムイオン電池を製造しており、それらをアグリゲーターのシステムと連携させることで、大規模なVPPリソースとして提供しています。災害時の非常用電源としての機能と、平時の需給調整機能を両立させています。
出典:エリーパワー株式会社
住友電気工業
住友電気工業はレドックスフロー電池などの大規模蓄電システムに加え、VPPを支える通信・制御基盤を開発しています。特にEVの充放電(V2G:Vehicle to Grid)の実証実験にも積極的で、車を「走る蓄電池」として電力網に統合する取り組みを進めています。
出典:住友電気工業株式会社
シャープ
シャープは家庭用太陽光発電と蓄電池のシェアを活かし、クラウドを通じて数万世帯の蓄電池を統合制御するサービスを行っています。AIが翌日の天気を予測し、各家庭に最適な充放電スケジュールを配信することで、地域全体の電力需給の安定に貢献しています。
出典:シャープ株式会社
アグリゲートの課題
期待の大きいアグリゲートですが、日本全国で当たり前のインフラになるためには、まだ乗り越えなければならない壁も存在します。
安定した通信環境とサイバー攻撃への備え
アグリゲートは、膨大な数のデバイスをインターネット経由で制御するため、高度なセキュリティと安定した通信網が不可欠です。万が一、システムがサイバー攻撃を受け、一斉に蓄電池が異常動作すれば、電力網全体に悪影響を及ぼすリスクがあります。2026年現在、政府はアグリゲーターに対して厳格な情報セキュリティ基準を設け、安全性の確保を急いでいます。
一般家庭への普及に向けた初期費用の壁
アグリゲートのシステムに参加するための蓄電池やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)の導入コストは、依然として安くはありません。アグリゲートによる報酬だけで初期投資を回収するには時間がかかるため、普及のスピードが課題となっています。これを解決するため、自治体による補助金制度の拡充や、機器を月額制でレンタルするサブスクリプション型のサービスが登場し、導入のハードルを下げようとしています。
複雑な制度と市場ルールの簡素化
電力市場のルールは非常に複雑で、一般消費者や中小企業が直接理解するのは困難です。2026年度から本格始動する「需給調整市場」の低圧リソース開放など、制度のアップデートは進んでいますが、誰でも直感的に参加できるようなシンプルなインターフェースや、明確な収益モデルの確立がさらに求められています。
アグリゲートの将来像は?
2026年、日本のアグリゲートは「実験」から「日常」へと移行する転換点にいます。これから先の数年で、私たちのエネルギー環境はどのように変わっていくのでしょうか。
「第7次エネルギー基本計画」が描く分散型社会
政府が策定を進める「第7次エネルギー基本計画」では、大規模発電所に頼り切る従来型から、地域ごとにエネルギーを自給・集約する「分散型エネルギー社会」への移行が加速されています。アグリゲートはその中核技術と位置づけられており、2030年に向けて、全国の家庭や企業が当たり前のように電力調整に参加する未来が描かれています。
スマホひとつでエネルギーを管理する日常
将来的には、スマートフォンのアプリ一つで「今日の午後は再エネが余るので、今のうちにEVを充電するとお得です」「夜間の節電協力で、来月の電気代が500円安くなります」といった通知が届くのが日常になります。エネルギー管理が自動化され、意識せずとも地球に優しく、経済的にも合理的な選択ができる社会です。アグリゲートは、私たちが電力の「消費者」から、供給にも貢献する「プロシューマー(生産消費者)」になるための架け橋となります。
まとめ
アグリゲートは、バラバラな電力を束ねて社会を支える「次世代の電力網」です。再生可能エネルギーを無駄なく使い、災害に強く、私たちの家計も助けてくれるこのシステムは、2026年の今、まさに社会に浸透し始めています。
一人ひとりが蓄電池やEV、あるいは節電という形でこのネットワークに参加することが、日本のエネルギーの未来を明るくします。まずは、自分の家でできるアグリゲートから興味を持ってみませんか?


