海底から世界を繋ぐ「情報の生命線」である海底ケーブル。もしこれが切断されたら、私たちの日常はどう変わってしまうのでしょうか?
2026年2月現在、世界各地で海底ケーブルの損傷事故が相次いで報告されており、中には故意に切断したことが疑われるケースも存在します。島国である日本にとって、この問題は決して他人事ではありません。今回は、最新の国際情勢を踏まえ、もしも海底ケーブルが切断されたときに私たちの暮らしに与える影響と、通信障害から身を守るための備えをやさしく解説します。
海底ケーブルが切断するとどうなる?
海底ケーブルが切断されると、私たちのインターネット環境や国際通信は極めて深刻なダメージを受けます。理由は、日本の国際通信の99%以上が海底ケーブルを経由しているためです。例えば、海外サーバーを利用するSNSやクラウドサービスが突然使えなくなる、あるいは通信速度が極端に低下するといった事象が発生します。海底ケーブルは現代社会における「目に見えない最重要インフラ」であり、その切断はデジタル社会の停止を意味すると言っても過言ではありません。
ケーブル切断の主な原因
海底ケーブルが切断される原因は、大きく分けて「自然災害」「人的過失」「故意の破壊」の3つがあります。
海底ケーブルの故障は年間で150件〜200件程度発生しています。その約7割は、漁船の網や船のアンカー(錨)がケーブルに引っかかる人的な過失によるものです。また、地震や海底火山の噴火、海底地すべりといった自然災害も大きな原因となります。最近では、2022年のトンガ沖海底火山噴火で通信が数週間にわたり遮断された事例が記憶に新しいでしょう。
実際に切断された場合の影響
実際に切断されると、通信データは別のルートへ迂回(ルーティング)されます。しかし、迂回先のルートが混雑するため、通信遅延や接続不安定が発生します。特に日本は海外のクラウドサービス(AWSやGoogle Cloudなど)への依存度が高いため、仕事で使うメールやストレージ、プライベートでの動画視聴やSNSが壊滅的な影響を受ける可能性があります。
海底ケーブルが故意に切断された?
近年、地政学的な緊張の高まりとともに、海底ケーブルが故意に切断されたと疑われるケースが世界中で注目されています。なぜなら、物理的な通信インフラを攻撃することは、相手国の経済や社会を混乱させる極めて効果的な手段になり得るからです。実際に2025年から2026年にかけて、紅海やバルト海で不可解な海底ケーブル切断事故が連続して発生し、国際社会に衝撃を与えています。現在は各国当局による慎重な調査が続いており、インフラ防衛の重要性がかつてないほど高まっています。
本項では、世界で報告されている「海底ケーブルの故意の切断」が疑われる主な事例を解説します。
紅海における通信ケーブル切断(2025年9月)
2025年9月6日、紅海の海底を通る「SMW4」や「IMEWE」など複数の主要ケーブルが相次いで切断されました。これにより、インド、パキスタン、UAEなどの南アジアから中東にかけて、深刻な通信障害が発生しました。マイクロソフトなどのテック企業も、クラウドサービス「Azure」の遅延を公式に認めています。この地域はフーシ派による船舶への攻撃が続いており、意図的な妨害の可能性が指摘されていますが、国際ケーブル保護委員会(ICPC)は船のアンカーによる事故の可能性も含め、慎重に調査を継続しています。
バルト海での切断と貨物船の拿捕(2025年末〜2026年1月)
2025年末、フィンランドとエストニアを結ぶ海底通信ケーブルが損傷しました。フィンランド当局は2026年1月6日、損傷に関与した疑いがあるとして特定の貨物船を拿捕し、乗組員から事情聴取を行っていると発表しました(出典:フィンランド国境警備隊発表資料)。この事件は単なる事故の枠を超え、安全保障上の重大な懸案としてEU全体で議論されています。
台湾周辺での事例(2025年2月・4月)
台湾本島と離島を結ぶ海底ケーブルが切断された件では、台湾検察当局が2025年4月、故意にケーブルを破損させた疑いで特定の船長を起訴しました(出典:台湾・台南地区検察處)。この事例はオーストラリアのABCニュースなど各国でも報道されています。
これらの事例はすべて調査中であり、犯行主体が断定されているわけではありませんが、海底ケーブルの脆弱性が浮き彫りになっています。
もしも日本の海底ケーブルが切断されたら?
もし日本の主要な海底ケーブルが切断された場合、私たちの生活は一瞬で「アナログ時代」に近い不便さを強いられることになります。日本は島国であり、データのほぼ全てを海底経由でやり取りしているため、代替手段が限られているからです。例えば、電子決済ができなくなる、物流システムが止まるといった、インターネット上の娯楽を超えた「生活基盤の崩壊」が懸念されます。私たちは、スマホ1台で完結する今の暮らしがいかに脆い土台の上に成り立っているかを理解しておく必要があります。
日本における具体的な影響を2つの側面から解説します。
デジタルサービスの麻痺
私たちが日常的に利用しているSNS(Instagram, Xなど)や動画配信サービス(YouTube, Netflix)のサーバーは多くが海外にあります。ケーブルが切断されると、これらのアプリが開かない、あるいは動画が再生されない状態が数週間続く可能性があります。さらに、より深刻な影響として企業が利用するクラウド型の業務システムが停止し、銀行のオンライン取引や証券売買も困難になる恐れがあります。
経済とライフラインへの打撃
現代の物流システムや電力管理、交通インフラもインターネットを通じて制御されています。ケーブル切断により海外とのデータ連携が途絶えると、輸入品の管理や国際送金がストップし、物価の高騰や商品の品不足を招くかもしれません。さらに、クレジットカードやQRコード決済が利用できなくなることで、買い物という日常動作そのものが困難になるリスクも孕んでいます。
海底ケーブル切断の影響を最小限にとどめるには?
海底ケーブルの切断によるリスクをゼロにすることはできませんが、個人レベルでの備えによって影響を最小限に抑えることは可能です。なぜなら、通信が遮断された際に「オフラインで動ける準備」があるかどうかが、混乱を避ける鍵となるからです。例えば、地図データの事前ダウンロードや、衛星通信などの代替手段の検討が有効です。国や企業も「レジリエンス(回復力)」の強化を急いでいますが、私たち利用者側もデジタル依存のリスクを分散させる意識を持つことが重要です。
具体的に私たちができる対策を3つ提案します。
通信手段の多重化(冗長化)
1つの通信会社(キャリア)だけでなく、予備の通信手段を持っておくことが有効です。最近では、海底ケーブルの影響を受けにくい「衛星通信(Starlinkなど)」が注目されています。地上のインフラがダメージを受けても、宇宙経由で最低限の通信を確保できるため、災害時の強力なバックアップになります。
オフライン環境の整備
インターネットがなくても最低限の生活ができるよう、重要な情報は物理的に保存しておきましょう。具体的には、Googleマップの「オフラインマップ」のダウンロードや、必要な身分証明書のコピー、防災マニュアルの印刷などです。仕事においても、重要なドキュメントはクラウドだけでなく、ローカルのストレージにバックアップを取っておく習慣が大切です。
現金(キャッシュ)の保有
デジタル決済が全盛の現代人にとって盲点になりやすいのが「現金」です。通信障害が発生すると、ATMもキャッシュレス決済も使えなくなる可能性があります。数日分の食料や日用品を購入できるよう、常に一定額の現金を財布や自宅に備えておくことは、最もシンプルかつ強力な防衛策となります。
まとめ
海底ケーブルは2026年の今も私たちの生活を支える不可欠なインフラですが、常に切断のリスクに晒されています。故意の破壊が疑われる国際情勢の中、日本に住む私たちも「通信は止まる可能性がある」という前提で備えることが必要です。衛星通信の検討や現金の確保など、今すぐできるアクションから始めてみませんか。あなたの日常を守るための第一歩は、この「見えないリスク」を知ることから始まります。
参考情報・リンク
- 国際電気通信連合 (ITU) – Submarine Cable Resilience
- 総務省 – 海底ケーブルの安全性・信頼性確保に向けた取り組み
- International Cable Protection Committee (ICPC) – Submarine Cable Data
- フィンランド国境警備隊 (The Finnish Border Guard) – プレスリリース(2026/01)
海底ケーブルについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にして下さい。


