昨今、新エネルギーの一つとして小水力発電が再評価されています。
国内各地で導入され好評を得ているので、地域で導入を検討したり、個人でも導入できるのではないかとお考えの方もいるでしょう。
この記事では、小水力発電のメリット・デメリットや導入例と共に、個人でも導入する方法をご紹介しています。
小水力発電とは
一般的に小水力発電とはどういうものを指すのか、また現在注目されている理由を解説します。
小水力発電の定義
小水力発電というカテゴリーは発電力によって分類されますが、明確な規定があるわけではなく、世界基準のようなものもありません。
日本では、現在のように新エネルギーが話題になる以前から10,000kW以下の水力発電を小水力発電と呼び、欧州でもESHA(ヨーロッパ小水力発電協会)が10,000kW以下を小水力発電と定義しています。
さらに経済産業省の所管で新エネルギーの研究開発を担うNEDOにより、10,000kW以下が小水力、1,000kW以下がミニ水力、100kW以下がマイクロ水力と定義されました。
しかし法的には1,000kW以下の水力発電を「新エネルギー」として扱っており、近年では1,000kWが小水力発電の基準とされることが多くなっています。
なぜ小水力発電が注目されている?
小水力発電が再生可能エネルギーの一つとして注目されている理由は、従来の水力発電のイメージを覆す魅力が認められてきたことです。
水力発電というと、大規模なダムの建設に伴う環境破壊のイメージをお持ちの方も多いでしょうが、小水力発電にはそのような大規模な土木工事は必要ありません。
日本の国土は世界的に見ても標高差が非常に大きい地形で、湿潤な気候により水の流れも途絶えることがなく、大規模な貯水池がなくても継続的に発電が可能です。
さらに、太陽光発電や風力発電ほどには天候に影響されないため、比較的安定した電力を供給することができます。
小水力発電は日本の国土にとても合った発電方式です。
小水力発電のメリットとデメリット
小水力発電が評価されている理由としていくつかのメリットがありますが、既に広く普及している太陽光発電と比較することでメリットを把握しやすくなります。
反面、普及がなかなか進まない原因となっているデメリットもあり、これからの課題となっています。
小水力発電のメリット
小水力発電には、おもに以下のようなメリットがあります。
- 24時間・365日を通じて安定した発電が可能
- 設備利用率が高く、太陽光発電・風力発電と比べて5~8倍
- 出力変動が少ないため安定した電力を提供できる
- 将来的に設置可能な場所が多く、電源としてのポテンシャルが高い
- 設置に必要な面積が小さい
特に、未開発のポテンシャルがまだまだ多い点が高く評価されており、全国小水力利用推進協議会によると、将来的に開発可能な1,000kW以下の水力発電は約300万kW存在すると計算しています。
小水力発電のデメリット
メリットの多い小水力発電がなかなか普及しないのは、以下のようなデメリットが理由として挙げられます。
- 一定の落差と流量がなければ設置できない
- 水の使用には水利権が絡み、風力発電や太陽光発電と違って利害関係が発生する
- 河川法による規制が強く、設置までの手続きが面倒
- 初期コストが高く、取り扱う業者も少ない
- 水害で大きな損害を受けやすい
- ゴミ掃除などのメンテナンスが必要
この中でも特に水利権の問題が大きく、設置に手間がかかることが専門業者がなかなか増えない理由にもなっています。
小水力発電の導入例
ここでは、小水力発電を導入して成功している国内各地の例を紹介します。
栃木県
栃木県北部の「那須野ヶ原発電所」は1992年に稼働を開始し、国内の小水力発電の先駆者として有名で、最大340kWの出力によって地域の産業に貢献しています。
那須野ヶ原は広大な扇状地で、張り巡らされた用水路の所々に小さな落差があったため、その落差を利用したマイクロ水力発電「百村第一・第二発電所」も2006年に設置されました。
富山県
富山県東部の黒部川水系は、急峻な地形と豊富な雪解け水の恩恵を受けられるため、小水力発電が広く普及している地域です。
黒部市が所有する2か所の小水力発電所や、県が2015年に稼働を開始した「小摺戸(こすりど)発電所」の他、「土地改良区」が運営する小水力発電も存在しており、すでに地域に根ざした設備となっています。
2021年5月には清水建設が中心となって、富山県朝日町の朝日小川ダム上流で最大出力961kWという新たな小水力発電の稼働を開始しました。
岐阜県
白山の麓にある郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)では、農業用水路を利用した小水力発電が2016年から始まり、過疎化が深刻だった地域を最大出力125kWの電力で活性化しました。
電力会社への売電で得た利益は農産物の加工に活かされるなど、全国でも珍しい取り組みとして高く評価されており、都市部から移住する若者も増えています。
岐阜県ではその他にも、奥飛騨地方で2020年に完成した「安房谷水力発電所」をはじめ、2021年には「一宝水第一水力発電所」の建設も始まるなど、小水力発電の導入が進んでいる地域です。
2023年に建設された小水力発電
2023年に日本で新たに建設された小水力発電所としては、以下のようなものがあります。
- 小鷹水力発電所:鹿児島県薩摩川内市にあり、三菱マテリアルが69年ぶりに新たに建設した発電所です。 既存の水力発電所の下流に位置し、最大出力は1,000キロワット。 脱炭素社会への貢献を目指します。
- 水の戸沢小水力発電所:東京都檜原村にあり、村が運営する発電所です。 水の戸沢ダムの放流水を利用し、最大出力は500キロワット。 村の財源としての役割を担います。
- 二川小水力発電所:和歌山県有田川町にあり、デンカが建設した発電所です。 二川ダムの放流水を利用し、最大出力は1,000キロワット。 自社工場の電力需要を賄うとともに、余剰電力を売電します。
- 一庫ダム水力発電所:兵庫県川西市にあり、水資源機構と国土交通省が発電量を増加させる実証実験を始めた発電所です。 治水・利水ダムの放流水を利用し、最大出力は1,000キロワット。 水力発電の効率化とハイブリッド化を目指します。
- 内川松沢小水力発電所:宮城県大崎市岩出山にあり、農業用水路を活用した小水力発電所です。出力は49.9キロワットです。発電した電気を全て東北電力に売電することにより、用水路の維持管理費を年間1300万円減らせます。
- 黒土川小水力発電所:兵庫県宍粟市千種町黒土地区で、住民らが設立した合同会社が運営する発電所です。 農業用水の余剰分を利用し、最大出力は39.6キロワット。 売電収益の一部は里山保全などに活用します。
- ふじのしずく発電所:山梨県富士吉田市にあり、農業用水路の流れを利用して直径5mの水車を回転させ発電しています。出力は13キロワットです。
以上が、2023年に日本で新たに建設された小水力発電所の一部です。 小水力発電は、地域の資源を活用して再生可能エネルギーを生み出す有望な手段です。
小水力発電は個人でもできる?
「家庭用の電源として小水力発電を利用してみたい」とお考えの方もいるでしょう。
先述のように水の利用にはさまざまな規制があるため、個人で利用するのは簡単ではありませんが、ここでは小水力発電の中でも特に小規模な「マイクロ水力発電」を導入する方法を解説します。
マイクロ水力発電を設置できる条件
マイクロ水力発電を設置するには、いくつかの条件を満たしていなければならず、その条件はおもに以下の通りです。
- 場所
- 費用
- 法的手続き
それぞれを順に解説します。
マイクロ水力発電を設置できる場所
水力発電を利用するには、水の流れがあることはもちろん、一定以上の流量と落差が不可欠です。
絶え間なく水が流れている水路や、ある程度の落差のある天然の河川などが該当します。
さらに、自身の所有地内であっても水には「水利権」があるため、自由に水力発電を設置することはできません。
水利権は、河川や水路の規模によって細かく規定されており、許可申請先も国・都道府県・市町村に分けられています。
これらを踏まえて、個人によるマイクロ水力発電の設置に適しているのは、以下のような場所が考えられます。
・水を大量に使用する工場内の水路
・農場内の水路や小規模河川
・個人の所有地内に流れる天然の小規模河川(要申請)
マイクロ水力発電に必要な費用
日本ではまだ馴染みがありませんが、小型の水力発電機が海外のいくつかのメーカーから販売されており、Amazonで注文することができます。
電源として本格的に利用できる出力500W~3kWの製品が販売されており、価格はおよそ10万~20万円です。
しかし国内での導入実績が少ないため、レビューがほとんどなく、高額な初期費用に見合った発電が期待できるのかは不明です。
故障などのトラブルが起きる可能性も考えられるため、現時点ではややハードルが高く、電気設備の知識と技術を持つプロ向けの機器と言えます。
一方で、国内では小水力発電の設計・施工を請け負う企業がいくつかあり、中でも特に小規模の水力発電の販売・施工を請け負っているのがシンフォニアテクノロジー株式会社です。
販売されている水力発電は、最大10kWの出力を持ちながら、使用流量が0.85㎥/秒・必要な落差がわずか2mなので、さまざまな場所に設置できます。
価格は公開されていませんが、個人や事業者が導入可能なマイクロ水力発電として候補に入れてもよいでしょう。
また、小水力発電を個人で設置したい方には、こちらの記事もおすすめです。
マイクロ水力発電の例
マイクロ水力発電とは、発電出力が100キロワット以下の小規模な水力発電のことです。マイクロ水力発電を販売しているその他の企業の例を紹介します。
東京発電株式会社
東京発電株式会社が提供している、水力発電の新しいビジネスモデル「Aqua µ(アクアミュー)」について紹介します。このビジネスモデルは、上下水道水や農工業用水、河川のえん堤などの水の未利用エネルギーを活用して水力発電を行うもので、東京発電が水資源をお持ちの顧客と共同事業やコンサルティングを行うというものです。
「Aqua µ(アクアミュー)」のメリットは、クリーンエネルギーであり、二酸化炭素の排出を抑制することができること、発電所の建設費用や運転費用、保守費用が不要であること、事業ノウハウや運転ノウハウもすべて東京発電が分担することなどが挙げられます。また、顧客には共同事業者として、発電事業の報酬や安価な電力、環境貢献などのメリットを提供します。
「Aqua µ(アクアミュー)」には、フルサポートタイプとテクニカルアドバイザータイプの2種類のメニューがあります。フルサポートタイプでは、東京発電が発電所の実施主体となり、顧客は水のエネルギーと発電所の設置場所のみ提供。テクニカルアドバイザータイプでは、発電所の所有および運営主体は顧客が行いますが、東京発電が計画・調査から運転保守など顧客の要望に合わせてサポートします。
東京発電は、2004年に水力発電事業を開始し、現在では関東甲信越の9つの地方自治団体と18か所の発電所を設置しています。東京発電の「Aqua µ(アクアミュー)」は、エネルギーの節約と創出に貢献する画期的なビジネスモデルです。
参照:東京発電株式会社
日立産機システム株式会社
日立産機システム株式会社が提供している「エネルギー回収システム」は、ビルや工場の空調や冷却水設備などで未利用になっている水の位置エネルギーを発電水車により電気エネルギーとして回収する製品です。
「エネルギー回収システム」の特徴やメリットは以下のとおりです。
- エネルギー回収率が約60%と高効率で、有効落差や流量に応じて最適な出力を得られる
- 電気出力のため、直流送電や交流送電が可能で、多様な負荷に対応できる
- 落差が大きい場合は水車を直列運転させ、流量が多い場合は並列運転させることで、規模に見合った電力回収が可能
- 水車と発電機が一体構造で小型軽量であり、配管途中に設置可能なインライン設計で、省スペースで取り付けられる
- バイパス配管を使用することで、水車・発電機本体の保守時も運転に支障がなく、安全性が高い
「エネルギー回収システム」は、未利用水力エネルギーを有効活用して、節電や環境保全に貢献できるマイクロ水力発電システムです。
参照:日立産機システム株式会社
合同産業株式会社
合同産業株式会社と株式会社リコーは、地域の再生可能エネルギーの普及に貢献するため、上水道施設を利用したマイクロ水力発電事業を始めました。
水道水の圧力を利用して、出力約1kWの水車発電機を設置し、施設内の電力消費を削減することができます。この発電システムは、既存の水道施設に簡単に設置でき、低コストで高効率な発電が可能です。また、発電した電力は、自家消費用や商用電力として売電することもできます。
第一弾として、山梨県の東部地域広域水道企業団施設内に発電所を設置し、2021年6月から発電を開始しました。今後は、防災面での活用や全国展開も目指しています。合同産業とリコーは、地元企業と連携し、水道を再生可能エネルギーとして活かすマイクロ水力発電の普及拡大に努めていく方針です。
参照:合同産業株式会社
また、小水力発電にはさまざまな助成金制度が用意されているので、活用するとよいでしょう。
中山鉄工所株式会社
中山鉄工所株式会社が提供するマイクロ水力発電は、小規模な水流を利用して発電するシステムです。以下に特徴やメリット、発電容量について解説します。
- 特徴:
- コンパクトな設計: コンテナタイプの小水力発電装置で、縦・横・高さともに2メートル程度のサイズです。
- 短期間で発電開始: 小水力発電は大型水力発電と比べて準備時間が短く、非常に迅速に発電を開始できます。
- 多くの潜在的な発電場所: 小さな河川や農業用水など、世界中に発電可能な場所が存在しています。
- 自立電源として利用可能: 電力会社の送電線を使わずに電力を供給できるため、送電線がない地域で効果的です。
- CO2削減: 小水力発電によりCO2の削減が実現できます。
- メリット:
- 費用削減: 建屋や配管工事を省き、低コストで設置できます。
- 安定した発電: 故障時でも放流水を維持し、安心して発電できます。
- 低騒音化: コンテナタイプの設計により、低騒音で運転できます。
- 発電容量:
- 最大出力: 49.9kW
参照:中山鉄工所株式会社
株式会社エリス
株式会社エリスが提供するマイクロ水力発電は、小規模な河川や水路に水車を設置して自然エネルギーを有効活用する取り組みです。この技術は数々の自治体の実証実験にて低落差でも高効率で発電できることが確認されています。
マイクロ水力発電の特徴は以下の通りです。
- 24時間365日発電可能: 昼夜や年間を通じて、変動が少ない安定した発電が可能です。
- 高い設備利用率: 太陽光発電よりも5~8倍の高い設備利用率を持ちます。
- 高い売電単価: 太陽光発電よりも高い売電単価で売電できます。
- 農業用水路に適用可能: 農業用水路においてもポテンシャルがあります。
- 環境負荷が少ない: 大規模な水力発電と比べて環境負荷が少ないです。
エリスは農業用水路や一般河川に設置可能な数十kWから数kW規模のマイクロ水力発電を取り扱っています。具体的な構成は以下の通りです:
- 水車本体: 河川などの水流を受けて回転し、水の力を回転する力に変えます。鉄製水車、木製水車、クロスフロー型水車などがあります。
- 発電機: 水車の回転を受けて発電する機器です。エリスでは水車専用の交流発電機を取り扱っています。
- 負荷: 発電した電気を使う消費設備です。LEDの照明や電光掲示板などに利用されます。
エリスのマイクロ水力発電は「水路借り」という形で始めることができます。費用負担なしでエリスが水路を借り、発電設備を設置し、売電して収益の一部を賃料として還元します。
参照:株式会社エリス
小水力発電を個人で設置したい方には、こちらの記事もおすすめです。
将来的には個人で小水力発電も可能
小水力発電はすでに地域の産業に大きく貢献し始めており、まだまだ国内各地に電源としてのポテンシャルが眠っています。
個人で設置するにはまだまだ課題が多いですが、国や自治体の後押しもあるので、将来的にぜひ導入を検討してみて下さい。
また、個人で小水力発電を設置する場合は、蓄電池とのセットがおすすめです。
↓こちらから無料でお見積もりも可能です。