近年、小水力発電を導入する自治体や地域が増えています。しかし、まだ設置できる業者や実例が少ないため、情報が少なくて導入に踏み切れない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、小水力発電を導入して成功している自治体や地域の事例を厳選して9件紹介しています。小水力発電に興味をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。
小水力発電とは?
まずは小水力発電の定義を簡単に説明します。マイクロ水力発電も含めて、国際基準のような厳密な定義はありませんが、通称としてある程度の基準があります。
小水力発電の定義
小水力発電とは、一般的に発電能力が数百kW~数MWの水力発電のことです。しかし国や地域によって基準は少し異なります。日本での小水力発電の定義は、発電容量が1,000kW(1MW)以下の水力発電です。小水力発電は、既存の水路や小川を利用するため、大規模なダム建設を必要としないので、比較的環境への影響が少ないです。
マイクロ水力発電の定義
マイクロ水力発電とは、小水力発電の中でも特に規模が小さいもののことで、一般的に発電容量が数kW~100kW程度までのものです。個々の家庭や小規模な集落、遠隔地域の電力供給に適しています。設備が簡素なため、設置コストが低く抑えられる点が長所です。多くは、小さな川や水の流れを利用して発電します。
それでは早速、自治体や地域で小水力発電が導入されている事例を紹介しましょう。
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松隈小水力発電所

引用:株式会社Q0運営サイト「Q0」
松隈小水力発電所は、佐賀県吉野ヶ里町松隈地区に2020年に設立された小水力発電所です。
この発電所は、筑後川の支流である田手川から毎秒200リットルの水を取り入れて、落差21.9メートルを利用して最大出力30kW、平均23.5kWの電力を供給しています。
年間の売電収入は約800万円で、20年間で約5000万円の純利益を見込んでいます。
この収益は、地域の高齢者支援やアーカイブ・水路の維持管理など、持続可能な地域づくりに活用されており、地域に大きな貢献をしている設備です。
通称「佐賀モデル」と呼ばれているこの発電設備は、コンパクトで汎用性が高く、工場で組み立ててトラックで運搬できるため、設置コストの削減にも成功しています。
特徴
- 従来は最低100kWが必要とされた小水力発電を、30kWという小規模で実現しています。
- 設備を工場で組み立てて、トラックで運搬することで設置コストを抑制しています。
- ヘッドタンクの設計により、落ち葉などのゴミを流水の力で自動的に除去するなど、メンテナンスが自動化されています。
活用例
- 年間約800万円の売電収入を得て、地域のさまざまな課題の解決に活用されています。
- 収益を活用してデマンドタクシーの補助など、高齢者の生活支援や交流の場を提供しています。
- 集落全戸が株主となり株式会社を設立し、電源確保による安心感を高めています。
松隈小水力発電所の概要
名称 | 松隈小水力発電所 |
運営 | 松隈地域づくり株式会社 |
所在地 | 佐賀県吉野ヶ里町松隈地区 |
設立 | 2020年 |
落差 | 21.9m |
出力 | 最大出力30kW、平均23.5kW |
参考サイトURL | https://q0.io/research/ |
引用:株式会社Q0運営サイト「Q0」
石徹白番場清流発電所

引用:石徹白農業用水農業協同組合
岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区では、農業用水路を活用した小水力発電が行われており、その主要な発電所が石徹白番場清流発電所(最大出力125kW)です。
また、近隣にはやや小型の発電所である石徹白清流発電所(最大出力63kW)もあり、年間の総発電量は約100万kWhで、一般家庭約280分の電力を賄うことができます。
これらの発電所は、地元の農業協同組合が建設・運営を行い、発電収益は地域の公共施設の電気代や録画の再生など、地域活性化に活用されています。
集落全体での取り組みにより地域の結束力が向上したことで、移住者が増加するなど、現在では地域再生の理想的なモデルケースの1つです。
特徴
- 農業用水路を利用することで、新たな環境負荷を極力抑えて発電しています。
- 地元住民が本体となって発電所の建設・運営を行っており、地域主導の運営体制です。
- 再生可能なエネルギーである水力発電を導入し、地域のエネルギー自給率向上に貢献しています。
活用例
- 発電した電力を地域の公共施設に供給し、電力コストの削減を実現しています。
- 発電収益を活用して耕作放棄された土地の再生や維持管理を行ったり、農産物加工品の製造など新たな産業を創出しています。
- 収益を地域イベントやコミュニティ活動の資金として活用し、地域の活性化に貢献しています。
石徹白番場清流発電所の概要
名称 | 石徹白番場清流発電所 |
運営 | 石徹白農業用水農業協同組合 |
所在地 | 岐阜県郡上市白鳥町石徹白 |
設立 | 2016年5月 |
水車形式 | 立軸6射ペルトン水車 |
落差 | 総落差111.7m、有効落差104.5m |
出力 | 最大出力125kW |
総事業費 | 約2億3千万円(県補助55%、市補助20%) |
公式サイトURL | https://itoshiropower.jimdofree.com/ |
引用:石徹白農業用水農業協同組合
立梅用水型発電プロジェクト

引用:農林水産省「農山漁村における再生可能エネルギーの取組事例」
立梅用水型発電プロジェクトは、三重県多気町において、江戸時代後期に築かれた農業用水路「立梅用水」を活用した地産地消型の小水力発電事業です。
このプロジェクトでは、立梅用水の上流部に位置する波多瀬地区に小水力発電設備を設置し、農産物の生産や加工、獣害対策などの農事用電力や⼩型モビリティ(電気⾃動⾞)の充電等に活用されています。
農業用水路の持つエネルギーを有効活用し、地域のエネルギー自給率向上や環境負荷の低減、さらには地域活性化に寄与するモデルケースの1つとして全国から注目されています。
特徴
- 江戸時代後期に築かれた農業用水路を活用し、持続可能なエネルギー供給を実現しています。
- 発電出力は2.6kWと、かなり小規模な小水力発電ですが、発電した電力をさまざまな用途に使用しています。
- 環境負荷が少なく、農業と両立可能な再生可能エネルギーです。
活用例
- 地元特産品を使用した⽶粉などの農産物加⼯施設や、獣害対策設備、農業⽤ポンプ、ハウスの加温施設等に電力を活用しています。
- 発電機を2機に増加したことにより⼩型モビリティ(電気⾃動⾞)の充電が可能になり、農業⽤⽔の維持管理や⾼齢者の⾒廻りにも活⽤しています。
- 産・官・学・⺠の協働プロジェクトで、わずか50cmの落差を活用しています。
立梅用水型発電プロジェクトの概要
名称 | 立梅用水型発電プロジェクト |
運営 | ⽴梅⽤⽔⼟地改良区 |
所在地 | 三重県多気郡多気町 |
設立 | 2012年8月 |
落差 | 50cm |
出力 | 2.6kW |
建設費 | 900万円 |
参考URL | https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-7.pdf |
引用:農林水産省「農山漁村における再生可能エネルギーの取組事例」
大日止昴小水力発電所

引用:農林水産省「再生可能エネルギーで地域の遺産を未来へつなぐ」
宮崎県椎葉村は、近隣の町村とともに世界農業遺産に認定された地域で、町内には明治時代から維持されている農業用水路が存在しています。この貴重な水資源を活用し、再生可能エネルギーによる町おこしを目的に大日止昴(おおひとすばる)小水力発電所が建設されました。
発電所の運営のために2016年に設立された大人発電農業協同組合には、非農家も含めた同地区の公民館員全員が加入しています。
発電所の建設には補助金を活用しつつ、日本政策金融公庫と宮崎銀行の協調融資、自己資金で対応。設備コスト削減のため、水車をインドネシアから輸入し、除塵機を自作するなど工夫が施されました。
特徴
- 明治時代から維持されている農業用水路を活用して発電しています。
- 非農家も含めた住民が一体となって発電所を運営しています。
- インドネシアから水車を輸入するなど、コスト削減の工夫がされています。
活用例
- 農業用水路の維持管理に活用されています。
- 公民館活動の支援や伝統芸能の維持に活用されています。
- 電力の地産地消を目指して運営されています。
大日止昴小水力発電所の概要
名称 | 大日止昴小水力発電所 |
運営 | 大人発電農業協同組合 |
所在地 | 宮崎県日之影町大人地区 |
設立 | 2017年11月 |
落差 | 85m |
出力 | 49.9kW |
建設費 | 9,600万円 |
参考URL | https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-108.pdf |
引用:農林水産省「再生可能エネルギーで地域の遺産を未来へつなぐ」
永吉川水力発電所

引用:ひおき地域エネルギー株式会社
永吉川水力発電所は、鹿児島県日置市のひおき地域エネルギー株式会社が運営しており、地域の再生可能エネルギー活用の推進に貢献しています。
同発電所は「水永吉(みなきち)くん」の愛称で親しまれ、認定出力44.5kWで年間約70世帯分の電力を供給しています。
売電収入は約800万円と見込まれており、適切なメンテナンスを行うことで、60年以上の稼働が可能とされ、地域のエネルギー自給率向上と持続可能な発展に寄与しています。
特徴
- エネルギーの地産地消のため、日置市・鹿児島銀行・地元ガス会社をはじめ19の団体や個人が出資し、発電事業主体会社を設立しました。
- 地域にとって初めての小水力発電事業であり、担当者が奔走して地域内外から協力者を発掘しました。
- 愛称を公募する等、地域住民にとって身近な発電所となっており、地元の小学生を含め、年間2〜300名が発電所を訪問しました。
活用例
- 年間約800万円の売電収入を得て、地域の発展に役立てられています。
- 地元在住のイラストレーターと地域の小学生たちがコラボレーションしたイラストが展示されています。
- 売電収益の一部を「ひおき未来基金」として積み立て、地域農業へ貢献する予定です。
永吉川水力発電所の概要
名称 | 永吉川水力発電所 |
運営 | ひおき地域エネルギー株式会社 |
所在地 | 鹿児島県日置市吹上町永吉 |
設立 | 2018年6月 |
水車形式 | クロスフロー水車(ドイツ製) |
有効落差 | 8.65m |
出力 | 44.5kW |
総事業費 | 約1億円 |
公式サイトURL | https://www.hiokienergy.jp/small-hydropower/ |
引用:ひおき地域エネルギー株式会社
寒川地区小水力発電所

引用:寒川水源亭「地元の名水を利用したマイクロ水力発電」
寒川地区小水力発電所は、熊本県水俣市寒川地区に2016年2月に設立された小水力発電所です。
同発電所が建設された場所は水資源が豊かな場所として知られており、地域の婦人会等が運営する飲食店「寒川水源亭」が営まれています。
しかし近年では過疎化に悩まされており、地域の維持と活性化を目指して、新たに小水力発電が導入されました。
特徴
- 天然の水流をそのまま活用した小水力発電で、地元企業が制作した小型のペルトン水車が設置されています。
- 地域住民や地域企業を中心に、産・官・学・⺠が一体となって運営されています。
- 過疎集落の活性化に繋がる新たな手法として高く評価され、総務省から「ふるさとづくり大賞(平成28年度)」を受賞しました。
活用例
- 寒川水源亭の電気使用料の負担軽減に貢献しています。
- 集落・伝統文化を自分たちの手で後世に残す目的のために活用されています。
- 再生可能エネルギーの地産地消を通じた産業の創出に貢献しています。
寒川地区小水力発電所の概要
名称 | 寒川地区小水力発電所 |
運営 | 市役所・地域住民・地域企業による共同運営 |
所在地 | 熊本県水俣市久木野寒川地区 |
設立 | 2016年2月 |
水車形式 | ペルトン水車 |
総落差 | 17.8m |
出力 | 3.2kW |
建設費 | 約1,400万円 |
参考URL | https://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/syokuhin/saiene/jirei/attach/pdf/index-12.pdf |
引用:寒川水源亭「地元の名水を利用したマイクロ水力発電」
沼の沢取水堰発電所

引用:北海道企業局
沼の沢取水堰発電所は、北海道夕張市に2019年に設立された小水力発電所です。
既存の取水堰の水流を活用して発電しており、大がかりな工事も不要なため、低落差でも発電できる施設のモデル事業として注目されています。
河川の生態系や景観の維持も考慮されており、水資源の有効活用とともに市町村等への普及啓発にも役立てられています。
特徴
- 未利用エネルギーである堰からの河川維持用水を活用した発電所です。
- 垂直2軸クロスフロー水車を事業用としては道内で初めて採用し、既設水路をほとんど改造せずに設置されています。
- 一定の水量を堰の下流に放流し、河川の生態系や景観の維持が図られています。
活用例
- 令和5年度実績で年間23,395kWhの電力を供給しています。
- 監視カメラ等の電源として利用されています。
- 農業用水路にも設置しやすいタイプの水車であり、類似施設への導入を促す参考事例としての価値もある発電所です。
沼の沢取水堰発電所の概要
名称 | 沼の沢取水堰発電所 |
運営 | 北海道企業局 |
所在地 | 北海道夕張市沼ノ沢 |
設立 | 2019年4月 |
水車形式 | 垂直2軸クロスフロー水車 |
出力 | 20kW |
建設費 | 約6,000万円 |
参考URL | https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-38.pdf |
引用:農林水産省「北海道企業局による、既存水路に設置可能な小水力発電の普及啓発」
有限会社やくの農業振興団による小水力発電

引用:両丹日日新聞社公式サイト
有限会社やくの農業振興団(京都府福知山市)が運営する小水力発電は、地域のガソリンスタンド減少による燃料供給問題を解決するために設置されました。地元の鉄工所の協力を得て、メンテナンスが容易な開放式水車を低コストで製作し、2.1kWと1.65kWの2機の発電設備を備えています。
発電した電力は全て自家消費され、地域内の蕎麦生産に活用しています。また、車両用充電器は非常用電源としても利用可能です。今後は、建設予定のみつまた加工場への電力供給など、電源のさらなる活用を計画しています。
特徴:
- 地域の水資源を活用した小水力発電で、メンテナンスが容易な開放式水車を導入しています。
- 2.1kWと1.65kWの2機の発電設備を備えています。
- 発電した電力はすべて自社で利用する自家消費型発電で、CO₂排出量を削減し環境負荷を低減しています。
活用例:
- 株式会社EVジャパンと協力して電動化したトラクターを地域の蕎麦栽培に導入し、燃料費高騰の問題を解決しています。
- 車両用充電器は災害時の電源として利用可能です。
- 今後建設予定のみつまた加工場への電力供給が計画されています。
有限会社やくの農業振興団による小水力発電の概要
運営 | 有限会社やくの農業振興団 |
所在地 | 京都府福知山市 |
設立 | 1号機 2015年3月、2号機 2016年3月 |
出力 | 1号機 2.1kW、2号機 1.65kW |
参考URL | https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/zirei-175.pdf |
引用:農林水産省「トラクターを電気自動車化し、小水力発電による電気を地産地消」
宮城小水力発電所

引用:長野県「小水力発電施設の実施事例」
長野県安曇野市の宮城小水力発電所は、安曇野有明土地改良区が管理する農業用水路に設置されている大戸井堰の落差を活用した発電施設です。
大戸井堰は、山地の麓から扇状地が広がる地点に位置しており、絶え間なく流れる水流を活かした電力が、地域の農業などに役立てられています。
特徴:
- 安曇野有明土地改良区が管理する農業用水路の既存の設備「大戸井堰」の落差を利用して発電しています。
- 水流は年間を通じて安定しており、最大出力18kW、年間発電量約140MWhを供給しています。
- コンパクトな機器を設置して農業用水の流れをそのまま利用しており、環境負荷を抑制しています。
活用例:
- 発電した電力は地元で利用する地産地消型で、地域のエネルギー自給率向上に貢献しています。
- 農業用水を有効活用し、営農と再生可能エネルギーの両立を実現しています。
- 他地域への小水力発電導入の参考事例となるモデルケースとしての価値があります。
宮城小水力発電所の概要
名称 | 宮城小水力発電所 |
運営 | 安曇野有明土地改良区 |
所在地 | 長野県安曇野市 |
設立 | 2017年3月 |
水車形式 | 縦軸プロペラ水車 |
有効落差 | 3.7m |
出力 | 18kW |
建設費 | 6,300万円 |
公式サイトURL | https://www.pref.nagano.lg.jp/nochi/kurashi/ondanka/shizen/hatsuden/ichiran/documents/ariake.pdf?utm_source=chatgpt.com |
引用:長野県「小水力発電施設の実施事例」
【まとめ】小水力発電で地域の水資源を活用しましょう
小水力発電の導入事例をご紹介してきましたが、全国各地で小さな設備が大きな成果を出していることがお分かりいただけたと思います。低落差で利用できるタイプもあるので、構造的にもシンプルな小水力発電機を設置するだけで水資源を有効活用できます。
小水力発電を地域で設置すれば、発電した電力を蓄電池に貯めておくことも有効です。災害時の非常用電源としても使用できるので、蓄電池はこれからの時代になくてはならないものとなるでしょう。
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