アンモニア発電という名称を聞いたことがあるでしょうか?
近頃、環境に優しい発電方式がいろいろと開発されていますが、アンモニア発電もその一つです。
「あの臭いアンモニアで発電?」と不思議に思われた方も多いでしょう。
この記事では「アンモニア発電とは何か」ということから、発電方法やメリット・デメリットなどを、アンモニア発電について知識を全くお持ちでない方にも分かりやすく解説します。
アンモニア発電とは
アンモニア発電とは、その名の通りアンモニアをエネルギー源として発電する方式です。
では、どうやってアンモニアから発電するかというと、火力発電と同じように蒸気タービンを回転させて発電します。
ご存知ではない方も多いでしょうが、実はアンモニアには可燃性があります。
ごくまれに、爆発事故も発生しています。
しかしアンモニアは燃えにくいため、従来は燃料として利用されることはほとんどなく、多くが肥料用として利用されてきました。
近年ではアンモニアの燃えにくさを解消する技術が生み出され、発電用の燃料として利用できるようになったのです。
アンモニア発電の発電方法
アンモニア発電は、アンモニアを燃焼させて水蒸気を発生させ、その熱エネルギーをタービンの回転エネルギーに変換して発電します。
原理は火力発電と同じですが、アンモニア発電ならではの工夫も取り入れられており、ここではそのいくつかをご紹介しましょう。
まず、燃えにくいアンモニアを効率良く燃焼させるために、専用のバーナーが設置されています。
火力発電用の設備に設置されているバーナーを、アンモニア燃焼用のバーナーに取り替えれば、そのまま利用することも可能です。
また、アンモニアを他の燃料と混ぜ合わせて燃焼させる取り組みも行われています。
特に多いのが、ガスタービン発電や石炭火力発電の燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させる「混焼」と呼ばれる形式です。
また、近年では燃料電池もアンモニアを燃料としたものが開発されています。
引用:資源エネルギー庁
アンモニア発電のメリット
アンモニア発電には、おもに次のようなメリットがあります。
- 燃焼時にCO2が発生しない
- 既存の設備を利用できる
- 水素と比較すると運搬が容易
以下で、それぞれを順に解説します。
燃焼時にCO2が発生しない
アンモニア発電の最も大きなメリットは、発電時にCO2を排出しないことです。
現在、国内の石炭火力発電所でアンモニアとの「混焼」が推し進められていますが、その一例としてJERA(東京電力グループと中部電力の合弁会社)の取り組みがあります。
JERAは、愛知県碧南市の「碧南火力発電所」にて2023年にアンモニア20%の混燃を開始する予定であることを2022年5月に発表しました。
この技術が本格的に導入されれば、将来的にCO2排出の大きな抑制につながるでしょう。
参考:JERA公式サイト
既存の設備を利用できる
アンモニア発電は、既に運用されている火力発電設備を利用することができます。
バーナーだけは専用のものに交換する必要がありますが、新たに発電設備を建設する必要はありません。
また、材料としてのアンモニアは化学工業などで一般的に使用されているため、輸送や貯蔵のための施設が数多く存在しており、これらをインフラとして利用できることもメリットです。
水素と比較すると運搬が容易
クリーンな新エネルギーの一つとして、水素による燃料電池が注目されていますが、最近は水素の代わりにアンモニアを使用する燃料電池が開発されています。
なぜなら、アンモニアは水素と比べて液化させることが容易なため、運搬や貯蔵にかかるコストをはるかに抑えられるからです。
また、アンモニアは肥料の製造などが長年行われてきたこともあり、運搬や貯蔵のノウハウが確立していることも扱いやすさにつながります。
水素については、こちらの記事も参考にして下さい。
アンモニア発電のデメリット
アンモニア発電にはいくつかのデメリットもあり、開発に向けての課題となっています。
- 燃焼効率が低い
- NOxが発生する
- 製造過程でCO2を排出する
以下で、それぞれを順に解説します。
燃焼効率が低い
アンモニアは燃えにくい性質のため、燃焼効率が低いことがアンモニア発電のデメリットです。
特に、大型の発電設備の場合は燃焼効率が低くなる傾向にあるため、現在のアンモニア発電の技術力では、本格的な実用化が難しい状況です。
国民の生活を支えるレベルでアンモニア発電を導入する場合は、発電効率を高めることが欠かせないでしょう。
NOxが発生する
アンモニア発電は窒素酸化物(NOx)を排出してしまうこともデメリットです。
アンモニアを燃焼させるとNOxが発生しますが、このうち二酸化窒素は光化学スモッグや酸性雨の原因になることがすでに広く知られています。
人体にも悪影響があるため、NOxの排出を抑制することが今後のアンモニア発電の普及には不可欠です。
製造過程でCO2を排出する
アンモニアの製造は「ハーバー・ボッシュ法」という手法で行われることが一般的ですが、この過程でCO2を排出してしまいます。
「ハーバー・ボッシュ法」は、高温・高圧という条件で化学反応させなければならないため、多くの熱エネルギーが必要になり、CO2が発生してしまうのです。
アンモニア発電の将来性は?
政府は「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けて、アンモニア発電の導入を後押ししており、いくつかの目標を掲げています。
一つは、2050年までに国内のアンモニア消費量を3,000万トンにまで引き上げることです。
もう一つは、2030年の国内電源構成のうち約1%を、水素とアンモニアが占めることを目標としています。
民間企業では、先述のJERAが特にアンモニア発電の導入に熱心です。
2040年までには、管轄内のすべての火力発電所でアンモニアの20%混焼を達成したいという目標を掲げています。
さらに2050年までには、すべての火力発電所でアンモニアのみによる発電を目指す方針です。
これらの目標が達成されるほどに技術が進歩すれば、アンモニア発電は私たちの暮らしに大きな影響を与えることになるでしょう。
アンモニア発電の将来性に期待
アンモニア発電が本格的に私たちの暮らしを支えるようになるのは、もう少し先のことになりそうですが、そのポテンシャルの高さは将来性に期待が持てます。
しかし、昨今の電気料金の高騰により、発電は誰にとっても暮らしに大きな影響を与える問題となっています。
当サイトでは今後も積極的に情報を発信していきますので、環境リテラシー向上のためにも、新しい発電技術には常に関心を持ち続けていただければ幸いです。