地中熱ヒートポンプは近年、省エネルギーに効果的な設備の1つとして注目されています。しかし、普段は人の目に触れない場所にあるため、ご存じではない方も多いのではないでしょうか。この記事では、地中熱ヒートポンプが採用されている国内の施設の事例を6件ご紹介します。
地中熱ヒートポンプとは?
まずは、地中熱ヒートポンプの基礎知識を簡単におさらいしておきましょう。
地中熱ヒートポンプは、地中にある熱を使って、建物を暖めたり冷やしたりするシステムです。地中の温度は、季節によって変わる空気よりも安定しており、冬でも暖かく、夏は涼しいという特徴があります。
具体的には、地下に設置したパイプの中に水や不凍液を流し、地中の熱と交換します。冬は地中の暖かい熱を取り入れて空気を温め、夏は室内の熱を地中に逃がして冷やします。
冷蔵庫の仕組みに似ていて、電気を使って熱を移動させることで、少ないエネルギーで効率よく温度調整ができます。そのため、電気代を節約でき、CO₂排出も削減できる環境に優しい技術として注目されています。
地中熱ヒートポンプの基礎知識については、こちらの記事も参考にして下さい。
それでは早速、地中熱ヒートポンプが採用されている国内の施設の事例を見てみましょう。
東京スカイツリー

引用:環境省
東京スカイツリーでは、地中熱ヒートポンプを活用した地域冷暖房システムを導入しています。このシステムは、東京スカイツリータウンの地下に埋設された熱交換設備を利用し、建物の冷暖房に必要なエネルギーを供給する仕組みです。
水源について
東京スカイツリータウンは、隅田川や北十間川に近接しています。計画段階では、これらの河川や工業用水を利用した熱交換の可能性も検討されましたが、技術的な制約から実現には至りませんでした。その代わりに、地中熱を利用するシステムが採用されました。
システムの仕組み
東京スカイツリーの地中熱利用は、地下約120mまで埋設された熱交換チューブを使用しており、ここで地中と熱交換を行い、冷暖房のエネルギーを供給しています。この方式により、外気温に影響されにくく、安定した空調を実現しています。
得られた成果
- エネルギー消費量を48%削減(従来システム比)
- CO₂排出量を40%削減
- ヒートアイランド現象の抑制
このように、東京スカイツリーは環境負荷を低減しつつ、効率的なエネルギー活用を実現しています。
参考:環境省 地中熱読本
横浜市新庁舎

引用:横浜市公式サイト
横浜市の新しい市庁舎では、令和2年6月に庁舎1階のアトリウム(吹き抜けの広場)の空調の熱源として地中熱ヒートポンプを導入しました。概要は以下の通りです。
約30,000メートルにも及ぶ採熱管
地下に埋設された66本の杭とともに1,320本の採熱管が設置されています。採熱管の総延長は約30,000メートルにもなり、首都圏で最大級の規模です。このシステムにより、アトリウムの暖房床などに地中熱が有効に活用されています。
エネルギー消費効率の向上
横浜市新市庁舎では、地中熱ヒートポンプの導入により、COP(エネルギー消費効率を表す指標)が従来の3.5から5.0まで約30%向上しました。これは、同じ電力を使った場合に、従来よりも30%多くの熱エネルギーを供給できることを意味します。
約52%の省エネ効果
地中熱ヒートポンプを導入した結果、従来のシステムと比較してエネルギー消費量を約52%削減することができ、ZEB Ready(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルを目指す建物)を達成しています。
参考:環境省 地中熱読本
北欧の風 道の駅とうべつ

引用:北欧の風 道の駅とうべつ公式サイト
北海道石狩郡当別町に位置する「北欧の風 道の駅とうべつ」では、再生可能エネルギーの活用を推進する取り組みとして、地中熱ヒートポンプシステムが導入されました。
導入の背景と経緯
当別町は、農業を基幹産業とし、面積の約6割を森林が占める自然豊かな地域です。環境への取り組みとして、平成28年に「当別町再生可能エネルギー活用推進条例」を制定し、再生可能エネルギーの活用を積極的に推進してきました。
道の駅の建設計画が進む中で、再生可能エネルギーの導入が検討され、建設予定地である太美地区は地中の温度が高いという特性を持ち、昔から地域住民が融雪や温泉利用に活用していた事から、地中熱の利用が適していると判断されました。
設備の概要
道の駅とうべつに導入された地中熱ヒートポンプシステムの主な仕様は以下の通りです。
- ヒートポンプユニット:暖房能力59.6kWのユニットを1台設置。
- ボアホール:深さ100メートルの掘削孔を11本設置し、地中熱を効率的に採取。
- 空調面積:施設内の約500㎡のエリアで冷暖房および床暖房に利用。
導入後の成果
地中熱ヒートポンプシステムの導入により、以下の成果が得られました。
- 省エネルギー効果:年間エネルギー削減量は26,283kWhを達成。
- CO₂排出削減効果:年間14.6トンのCO₂排出削減を実現。
- ランニングコストの削減:施設全体の電気代は年間730,685円となり、従来のシステムと比較してコスト削減に成功。
これらの成果は、当別町の再生可能エネルギー活用推進の取り組みをさらに加速させるものであり、地域の環境保全と持続可能な発展に大きく貢献しています。
参考:環境省 地中熱読本
みんなの森 ぎふメディアコスモス

引用:みんなの森 ぎふメディアコスモス公式サイト
「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は、岐阜市にある複合文化施設で、市立中央図書館や市民交流センター、多文化交流プラザ、展示ギャラリーなどが集まっています。この施設では、環境に優しい建物を目指し、地中熱ヒートポンプを導入しています。
導入の経緯
岐阜市は、自然エネルギーを最大限に活用し、消費エネルギーを半分にする施設の建築を目指していました。そのため、地域特性である長い日照時間や豊富な地下水を活用することを計画しました。特に、敷地内には長良川の伏流水が流れており、これを利用することで、未利用エネルギーを有効に活用できると考えました。
設備の概要
敷地内には深さ30メートルの井戸が2本掘られ、そこから地下水を汲み上げています。 この地下水は、床の冷地下暖房の熱源として使用され、その後、外の広場にあるせせらぎへ放流され、最終的には樹木の給水として地中に戻ります。また、施設内には「グローブ」と呼ばれる逆さまの漏斗の形状をした構造物があり、自然換気効果などを生み出します。
導入後の成果
これらの自然エネルギーを最大限に活用した結果、従来の建物が消費する一次エネルギーと比較して、50%以上の削減を実現しました。
このように、「みんなの森ぎふメディアコスモス」は、地中熱ヒートポンプやその他の自然エネルギーを効果的に活用することで、環境に優しく、かつ快適な空間を提供しています。
参考:環境省 地中熱読本
新潟駅南口広場

引用:新潟市公式サイト
新潟駅南口広場では、地中熱を利用した熱を利用したパイプ融雪システムが導入されています。このシステムは、地中熱を利用して歩道の雪を融かすもので、平成21年9月から運用が開始されました。新潟市は、駅周辺の整備事業の1つとして、新潟駅南口広場の再構築を進めてきました。
設備の概要
このシステムは、深さ15~20メートルの熱交換井に冷媒が封入されたヒートパイプを数本挿入し、その上部を路面下に放熱管として埋設する構造です。地中の温度が地表より高い場合、地中の熱でヒートパイプ内部の冷媒が蒸発し、気化した冷媒が地表に移動して留まり、その際に放出される熱で路面の雪を融かします。この循環により、動力を必要とせずに雪が溶けます。
導入後の成果
新潟駅南口広場では、東側に路線バス乗降場、西側にタクシー乗り場と自家用車整理場が整備され、鉄道との即応性が向上しました。中央部には約1,350平方メートルのにぎわい空間が設けられ、様々なイベントの会場として活用されています。
中央部の歩行者動線に導入された地中熱熱融雪システムは、降雪時でも快適な歩行者空間を確保しています。冬季の通常の積雪時(30センチメートル程度)には十分な効果を発揮し、整備後もメンテナンスが不要なため、ランニングコストはかかりません。
課題と今後の展望
大雪により積雪が多くなると、地中熱ヒートパイプの能力を上回り、雪が融けにくくなる課題があります。そこで、新たに設計を進めている駅北側の新潟駅万代広場では、歩行者動線上に上屋を設置し、補完する位置へ同様の融雪システムの導入を検討しており、広場利用者の利便性向上を進めています。
参考:環境省 地中熱読本
新青森県総合運動公園陸上競技場

引用:丸喜 株式会社 齋藤組公式サイト
新青森県総合運動公園陸上競技場(カクヒログループアスレチックスタジアム)では、自然エネルギーを活用した地中熱ヒートポンプシステムが導入されています。このシステムは、施設内の空調に地中熱を利用することで、エネルギー効率の向上と環境負荷の低減を図っています。
設備の概要
- 外気取入れの工夫
ロンドンサイドスタンド外周の盛土部にヒートチューブを設置し、外気をこのチューブに通させて地中熱と接触させてから空調機に導入しています。これにより、外気の温度を地中熱で調整し、空調機の外気負荷を低減しています。 - 採熱杭の利用
バックスタンドの鋼管杭を「採熱杭」として活用し、地中熱を採取しています。これにより、室内練習場などの空調に地中熱を利用しています。
環境への配慮
この競技場では、地中熱の利用だけでなく、大屋根に積もった雪や雨水を貯水槽に集め、トイレの洗浄水などの雑用水として再利用するなど、環境に優しい設計が実施されています。
参考:営繕とうほく
まとめ
この記事では、地中熱ヒートポンプが採用されている国内の施設の事例をご紹介してきました。地中熱ヒートポンプは環境にやさしいうえに、設置後のメンテナンスがほとんど必要ないという大きなメリットがあります。私たちの生活に人知れず貢献している地中熱ヒートポンプに、より一層注目していただければ幸いです。
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