初心者の方にはやや分かりにくいと思われる地熱発電ですが、近年、再生可能エネルギーの一つとして注目されています。
いずれ、石油や石炭を使用する火力発電に代わるベース電源にもなり得るので、知っておいて損はありません。
この記事では初心者の方にも分かりやすいように、地熱発電に関する疑問に一つずつ答える形で、現状や将来性について簡単な表現で解説します。
地熱発電とは
まず、地熱発電とは一体どんなものでしょうか?
原子力発電の停止や火力発電の燃料高騰など、電力の危機的な状況を迎えつつある中、地熱発電は本当に期待できるのでしょうか?
メリットとデメリットも併せてご紹介します。
地中の熱を利用した発電
地熱発電は、地中にあるマグマの熱によって発生した蒸気を利用する発電方式です。
「蒸気の力を利用して回転体(タービンと呼びます)を回転させる」という点においては、火力発電と同じです。
しかし、化石燃料を燃やして蒸気を作る火力発電と違って、地熱発電は自然界に存在する蒸気を利用するため、CO2をほとんど排出しません。
地熱発電は、いわば地球が天然のボイラーとなっているわけです。
地熱発電の歴史
地熱発電は日本では比較的古くから研究・開発されてきたものの、発電所としてはそれほど普及せず、ごく一部の地域でひっそりと稼働してきました。
日本で初めて稼働を開始した地熱発電所は、岩手県八幡平市にある「松川地熱発電所」です。
松川地熱発電所は1966年に運転を開始し、出力は23,500kWあります。
その翌年には大分県で「大岳発電所」が運転を開始し、こちらの出力は13,700kW。
その後もいくつかの地熱発電所が、東北と九州を中心に建設されてきましたが、政府の方針や開発の難しさなどにより、地熱発電が広く普及するまでには至りませんでした。
しかし、近年になってCO2排出の抑制を目指す動きが活発になったことにより、国内各地で新たに地熱発電所が建設されています。
地熱発電のメリット
地熱発電には、以下のようなメリットがあります。
- CO2をほとんど排出しない
- 24時間安定した発電が可能
- 海外からの輸入に頼る必要がない
- 熱水を発電以外にも応用可能
地熱発電のデメリット
一方で、地熱発電には以下のようなデメリットもあります。
- 開発に年数とコストがかかる
- 開発リスクが高い
- 発電効率が低い
- 開発地域が国立・国定公園や温泉地と重なっている
地熱発電の現状
現在、日本で運転されている地熱発電所は、2019年度末の時点で70ヶ所(92ユニット)あります。
国内すべての地熱発電所の発電容量を合計すると、536,915kWになり、これは国内の電源のうち0.2%にあたる数値です。
参考:地熱発電の現状と動向2020年
国内全体の電源と比較すると、まだまだ地熱発電の比率は低いのですが、ここ数年で着実に増えてきています。
地熱発電の実用例
国内で地熱発電が実際に稼働している例をご紹介します。
九州地方の地熱発電所
九州の中でも大分県は国内で最も多くの地熱発電所が稼働しており、特に別府市には20ヶ所以上の地熱発電所があります。
鶴見岳・伽藍岳という2つの火山のふもとに位置する別府温泉郷は、国内でも最も多くの源泉数を誇り、そのエネルギーを活かした小規模の地熱発電が点在する地域です。
また、熊本県と隣接する九重町は阿蘇山のふもとに位置し、先述の大岳発電所に加えて八丁原発電所や滝上発電所など、大型の地熱発電所があります。
特に八丁原発電所は、出力55,000kWの1号機と2号機・出力2,000kWの3号機の合計112,000kWという、国内最大の地熱発電所です。
大分県に次いで地熱発電が盛んなのが鹿児島県で、山川発電所と大霧発電所はそれぞれ30,000kWの出力を持っています。
東北地方の地熱発電所
東北地方は、数こそ九州より少ないものの、比較的大型の地熱発電所が多い地域です。
東北電力の管轄地域内にある地熱発電所だけでも、国内の約半分の発電容量を抱えています。
岩手県には国内で最初に運転を開始した松川地熱発電所のほか、国内で2番目の出力80,000kWの葛根田地熱発電所もあります。
しかし葛根田地熱発電所は、出力50,000kWの1号機が老朽化と蒸気量の低下により、2022年10月に廃止されることになりました。
一方で、2024年3月1日には岩手県八幡平市で安比地熱発電所(出力14,900kW)が営業運転を開始しました。
岩手県で1万kWを超える大規模な地熱発電所の新稼働は28年ぶりということで、こちらも大きな注目を集めています。
秋田県にも、出力50,000kWの澄川地熱発電所など大型の地熱発電所があります。
2019年には秋田県湯沢市に山葵沢地熱発電所(出力46,199kW)も完成し、発電を続けています。
地熱発電の将来性
地熱発電は将来的に成長が期待できるのか、そのポイントを見てみましょう。
地熱発電の中で唯一、新エネルギーとして定義されている「バイナリー発電」についても解説します。
電源としての潜在能力
日本は火山大国であり、世界3位の地熱資源量が眠っていると言われています。
その資源量は約33GWと推定されており、将来的に地熱発電を開発できる高い潜在能力を秘めているのです。
地熱発電を開発する技術
日本には古くから地熱発電を行ってきた歴史があるので、開発のための技術的な強みを持っています。
特に、蒸気タービンの製造において世界最高峰の技術を持っており、代表的な3企業だけで世界の約7割のシェアを占めます。
この技術を活かし、政府は2030年に地熱発電の発電量を約150万kWにすることを設定。
現在の発電量はおよそ50万kWなので、約3倍の発電量になることが期待されています。
バイナリー発電
地熱発電を実用化するためには多くの条件が必要なため、近年まで広く普及しませんでした。
重要な条件の一つが水蒸気の温度で、発電所として稼働するには150℃以上の水蒸気が必要です。
その課題をクリアするために開発された技術が「バイナリー発電」で、150℃以下の蒸気でもタービンを回転させることができるようになりました。
バイナリー発電を簡単に説明すると、水よりも沸点の低い媒体(アンモニアやペンタンなど)を使用して、その蒸気によりタービンを回転させるという仕組みです。
従来は地熱発電として利用できなかった温度の熱水が発電に利用できるようになったため、バイナリー発電は地熱発電の増加に大きく貢献しました。
地熱発電の中でもバイナリー発電のみ、新エネルギーとして定義されていることもあり、今後ますます増えていくことが予想されます。
バイナリー発電については、こちらの記事でも詳細に解説しています。
地域密着型産業
地熱発電は、地域密着型の産業のベースになれることも魅力の一つです。
発電した後の熱水を再利用することにより、発電以外の産業にも応用する取り組みが全国各地で行われています。
既に行われているおもな利用方法は、農業・畜産業・漁業です。
熱水の再利用により、従来では栽培できなかった熱帯の作物を栽培したり、水温を年中一定に保って魚の養殖を行っている地域もあります。
地熱発電が抱える問題点
今後、地熱発電が普及していくために克服しなければならないおもな点は、以下の通りです。
開発コストとリスク
地熱発電の開発には多くの工程が必要です。
まず、熱水が貯まっている層を発見するための地質調査と、穴を掘るための掘削作業を行います。
これだけでも億単位の資金が必要で、掘削しても発電できる蒸気が得られる確率は30%程度と言われています。
工事の成功率を上げ、高額な投資に見合った成果を得るためには、地質学者・掘削業者・電力会社など、多くの専門家や業者の連携が必要です。
国立・国定公園に絡む問題
地熱発電の開発がなかなか進まない原因の一つとして、法律による規制があります。
地熱発電を行える場所の多くは、火山を中心とした景勝地にあり、国立公園・国定公園に指定されている地域に含まれていることがほとんどです。
これらの地域を保護する目的で、自然公園法・温泉法・森林法などの法律によって開発が制限されています。
温泉地の反対
地熱発電を行える場所は温泉地であることが多く、開発を巡っては、温泉地の各業者による反対意見を受けるケースが多くなっています。
地熱発電に熱水を利用するため、温泉に利用できる湯が少なくなってしまうのではないかという意見が根強く残っているからです。
しかし、近年の環境志向により、新エネルギーの重要性に対する理解が深まり、地熱発電に対するイメージも少しずつ変わってきました。
将来性豊かな地熱発電に期待しよう
地熱発電は火山や温泉の多い日本に合った発電方式で、将来的に大きな期待を背負っています。
これまでは多くの壁に阻まれてきましたが、技術の進歩や規制緩和により状況が大きく変わってきており、近い将来日本の重要なベース電源として定着する日が来るかもしれません。