近年、再生可能エネルギーの重要性が高まる中で、身近な熱を電気に変える熱電発電が注目を集めています。特別な動力を使わず、廃熱や自然の熱を利用できるこの技術は、未来のエネルギー社会に大きな可能性を秘めています。本記事では、熱電発電の基本から応用例、将来性までをやさしく解説します。
熱電発電とは?

画像引用:東京科学大学
熱電発電とは、熱のエネルギーを直接電気に変換する技術です。たとえば、エンジンや工場から出る廃熱や、日光で温まった屋根などの温度差を使って電気をつくることができます。これはゼーベック効果と呼ばれる現象を利用しています。仕組みはシンプルで、異なる温度の場所に熱電材料を置くと、材料の中を電子が移動して電気が発生します。
この発電方法は、動く部品がほとんどないため、故障が少なく、メンテナンスも簡単です。また、小型のデバイスでも利用できるため、ウェアラブル機器やセンサーなどでも活躍が期待されています。
熱電発電の原理

画像引用:東京理科大学
熱電発電は、ゼーベック効果(Seebeck effect)という物理現象を利用しています。これは、2種類の金属や半導体を接続し、一方を温め、他方を冷やすことで電圧が発生する仕組みです。
熱電材料の一端を高温に、もう一端を低温にすると、電子や正孔(電子の抜けた穴)が高温側から低温側へ移動します。その結果、電位差が生まれて電流が流れます。このとき使われる材料には、ビスマステルル化物やスズセレン化物などがあり、効率を高める研究が進められています。
熱電発電は静かで環境負荷が小さいことも特徴で、再生可能エネルギーの一種として注目されています。
熱電発電のメリット

画像引用:東北大学工学部
熱電発電には以下のようなメリットがあります。
- 廃熱の再利用が可能:工場や車のエンジンから出る熱を再利用でき、エネルギーの無駄を減らせます。
- メンテナンスが簡単:動く部品がないため、長時間にわたって安定して使えます。
- 小型・軽量:小さな機器にも組み込みやすく、ウェアラブル機器や宇宙探査機などでも使われています。
- 環境にやさしい:二酸化炭素を出さない発電方法として、地球温暖化対策にも貢献できます。
こうした特徴により、さまざまな分野での活用が期待されています。
熱電発電の開発に力を入れている企業

画像引用:ヤンマー
熱電発電の技術開発には多くの企業が取り組んでいますが、2025年にはヤンマーとEサーモジェンテックの取り組みが特に注目されています。本項ではこの2社の取り組みを詳しく解説します。
ヤンマーの熱電発電

画像引用:ヤンマー
ヤンマーが2025年1月に発表したシステムは、350~800 ℃に及ぶ高温排ガスを熱源とし、サーモサイフォン式熱交換器で熱と循環流体(水)を使って熱エネルギーを熱電モジュールに効率的に伝える構造です。
その結果、可動部がないため振動・騒音がほとんどなく、10 年以上の長寿命運用が可能です。
システム仕様と性能
- 出力:熱電ユニットを4台構成で、最大交流9 〜9.5 kWを発生します。
- CO₂削減効果:年間で約30 トンのCO₂削減が期待できます。
設置性:排ガスダクトにボルト固定設置、冷却水と電気をつなぐだけ。短期間(1.5〜3日)で導入完了できます。 - メンテナンス性:可動部がなく振動・騒音がないため、メンテナンスフリーで長期間稼働可能です。
展示・実用化の状況
- ENEX2025(2025年1月29〜31日、東京ビッグサイト)にて、システムの実機展示が行われました。
- 現在は事業性の実証試験中で、最終的にはヤンマーeスター株式会社からの商品化を目指しています。
参考:ヤンマー公式サイト
Eサーモジェンテックの熱電発電

画像引用:Eサーモジェンテック
京都市に本社を置く株式会社Eサーモジェンテックは、以下のような熱電発電技術を中心に開発を進めています。
フレキシブル熱電発電モジュール「フレキーナ®」
- 湾曲可能かつ薄型のモジュール設計:従来のセラミック基板型に比べ、円筒状のパイプや配管に密着しやすく、熱回収効率が約3倍に向上しています。
- Bi−Te 系熱電素子を活用:実績あるビスマス・テルル化合物を極薄フレキシブル基板上に高密度実装し、熱電変換効率は従来比で約2倍を達成しました。
- 耐熱温度別ラインアップ:M1シリーズ(150℃まで)、M2シリーズ(250℃耐熱、開発中)と用途に応じて選択可能です。
IoT向け自立電源「S1シリーズ」
S1シリーズは、「フレキーナ®」を搭載した熱電モジュールを用いた実用製品です。2種類のモデルがあり、出力と特徴は以下のとおりです。
型番 | 対応パイプ径 | 出力(温度差50℃時) | 特長 |
S1‑P1 | 25Aパイプ | 約10 mW | センサーなど小型機器向け |
S1‑P2 | 25Aパイプ | 約180 mW | 複数センサーや無線機など高出力要件にも対応 |
- 簡単装着・高出力:配管に巻き付けるだけで数十mWの電力が得られる便利な発電機です。
- IoT自立電源として有効:工場の温度・振動センサー、データロガー、無線通信モジュールなどを動かすのに十分な性能を持ちます。
受賞・評価実績
- NEDO省エネルギー技術開発賞(2024年2月):受賞テーマは「独自の水冷2重管熱電発電ユニットによる高効率自立電源」で、ENEX2024 にて展示・紹介されました。
- 多数の研究助成・実証実験:NEDOや経産省の研究開発補助金を多数獲得し、300℃以下の低温排熱の実用化に取り組んでいます。
その他の企業
他にも、熱電発電は国内外でおもに以下のような企業が技術開発に取り組んでいます。
- 日立製作所:廃熱回収型の熱電モジュールを開発中。工場や車の排熱を利用した発電システムに注力しています。
- 富士電機:小型の熱電発電デバイスを開発し、IoT機器や遠隔センサーなどへの応用を目指しています。
- ローム株式会社:半導体技術を活かし、高効率の熱電変換材料の研究を進めています。
- 米国のAlphabet(Googleの親会社)傘下の企業:宇宙や遠隔地で使える小型熱電デバイスを開発しています。
熱電発電の将来性
熱電発電は、今後のエネルギー社会にとって重要な技術になると考えられています。その理由は次のとおりです。
- 再エネとの相性が良い:太陽熱や地熱と組み合わせて効率的な電力供給が可能です。
- エネルギーの地産地消ができる:地域の熱資源を使って、地元で電力をまかなうことができます。
- IoT時代に適応:センサーなどの小型機器の電源として期待され、省電力での運用が可能です。
今後は、材料の性能向上や製造コストの低下が進むことで、より多くの場面で活用されるでしょう。特に脱炭素社会の実現に向けて、熱電発電の役割はますます重要になると予測されています。
脱炭素について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にして下さい。
まとめ
熱電発電は、身の回りの熱を電気に変える環境にやさしい発電方法です。ゼーベック効果を使って、工場や車などから出る廃熱を再利用でき、将来のエネルギー問題の解決策としても期待されています。大阪万博などを通じて再エネ技術への関心が高まる中、熱電発電のような革新的な仕組みに注目が集まっています。今後の発展が楽しみな技術です。