近頃、脱炭素というワードをあちこちで見かけますが、何となく「二酸化炭素の排出を減らすこと?」という程度のイメージをお持ちの方は多いと思います。
この記事では、脱炭素に改めて関心を持っていただくために、脱炭素の意味や必要性、取り組みや類義語など、多方面から実例を挙げて分かりやすく解説しています。
少し長くなりますが、どうぞ肩の力を抜いて気楽な気持ちでお読み下さい!
脱炭素とは
脱炭素とは、地球温暖化の主要な原因である温室効果ガスの排出を、実質的にゼロに近づける取り組みのことです。
脱炭素は現在、世界中で緊急な課題として認識されており、気候変動や環境問題に対抗するための重要なステップとして注目されています。
脱炭素化は、過去の経済活動やエネルギー生産に伴って放出された二酸化炭素などの温室効果ガスを削減し、新たなエネルギーソースや持続可能な技術の導入を通じて、将来の排出を最小限に抑えることを目指すものです。
脱炭素化によって、地球温暖化の進行を遅らせ、生態系や人々の生活を守ることが期待されています。
なぜ脱炭素社会化が必要なのか?その背景と重要性
脱炭素社会化がなぜ必要なのか、その背景と重要性を考えてみましょう。
地球温暖化や気候変動は、私たちの生活や環境に大きな影響を及ぼす問題です。
化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出などが原因とされ、極端な気象現象や海面上昇といった影響が既に現実に起きています。
脱炭素社会化は、これらの問題に対処するための一つの解決策です。
持続可能なエネルギー源への移行やエネルギー効率の向上によって、二酸化炭素の排出を減少させ、地球温暖化の進行を防ぐことを目指します。
また、再生可能エネルギーの利用拡大はエネルギーセキュリティを向上させ、環境と経済の両面で利益をもたらすとされています。
このように、脱炭素社会化は地球温暖化の防止だけではなく、持続可能な未来の実現のためにも重要な役割を果たすのです。
世界が目指す脱炭素化
現在、既に世界中の国々が脱炭素化に向けて取り組んでいます。
地球温暖化は気象現象だけではなく、各国の経済にも大きな影響を及ぼしているからです。
特に私たちの生活に影響を与えているものが、食料品の高騰です。
輸入食品や原材料などが、ここ数年で高騰しており、各家庭でも悩みの種となっているでしょう。
エネルギー問題も同様で、酷暑により電気の使用が増加し、エネルギー不足の傾向も表れています。
そのため、脱炭素化はもはや世界中で避けられない段階に来ているのです。
地球温暖化による気候変動
地球温暖化は、大気中の温室効果ガスの増加によって引き起こされる現象です。
これによって地球全体の平均気温が上昇し、異常気象や極端な気候事象が増加するとされています。
例えば、台風の勢力や洪水、干ばつなどが深刻化し、人々の生活や環境に大きな影響を与える恐れがあり、既に現実に起きているのです。
さらに、海面上昇による浸水被害や食糧生産への影響も懸念されています。
このような状況から、気候変動の緩和と適応は緊急の課題です。
脱炭素化は、気候変動の進行を遅らせるためになくてはならない手段の一つとして位置づけられています。
燃料資源の枯渇とエネルギーセキュリティ
化石燃料(石油・石炭・天然ガス)は、私たちの社会・経済の基盤となるエネルギー源です。
しかし、これらの燃料資源は限られており、採掘や利用に伴う環境負荷がとても大きいのです。
さらに、需要の増加に伴って枯渇のリスクが高まっています。
燃料資源の枯渇はエネルギーセキュリティに影響を及ぼし、国際的なエネルギー需給の安定性を脅かす可能性があります。
価格の上昇や供給の不確実性が、国際紛争や経済的な混乱を引き起こす恐れもあるのです。
脱炭素社会を巡るこれまでの国際的な取り組み
地球温暖化の影響を軽減し、持続可能な未来を築くための取り組みは、国際的な協力を必要としています。
その中でも特に重要な役割を果たしたのが、京都議定書とパリ協定です。
これらの国際的な枠組みは、脱炭素社会の実現に向けて世界中の国々が目指すべき道筋を示しています。
京都議定書
京都議定書は、1997年に日本の京都で開催された国際連合気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択されました。
この議定書は、工業国に対して温室効果ガスの排出削減目標を義務付ける歴史的な合意です。
具体的には、2008年から2012年までの期間において、一部の先進国・地域に対して排出削減目標を設定し、1990年の排出量に対して削減を行うことが求められました。
京都議定書は、国際的な協力を通じて気候変動への取り組みを推進する重要な先駆けとなりましたが、その一方で一部の新興国には排出削減目標が適用されなかったことや、温室効果ガスの増加が進んだことから、その効果には限界もありました。
パリ協定
2015年にフランスのパリで開催された、国際連合気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は、京都議定書の後継として注目される国際合意です。
パリ協定の最大の成果は、温室効果ガスの排出を抑制し、気温上昇を2℃未満に抑えることを目指すという議決でした。
パリ協定では、各国が自主的に「国別貢献(NDCs)」を提出することが求められました。
これにより、国ごとの事情や能力に合わせた排出削減目標が示され、その後の評価・強化が進められる仕組みが確立されたので、脱炭素化に取り組みやすくなったのです。
また、特に脆弱な国や地域への支援や技術移転も取り入れられ、持続可能な発展を支援する一環ともなりました。
脱炭素化のための具体的な取り組み
脱炭素化を実現するためには、以下のような様々な取り組みが行われています。
- 再生可能エネルギーの導入
- エネルギー効率の向上
- カーボンキャプチャー技術
- 持続可能な交通手段の推進
- 森林の保全と再植林
それぞれを順に見てみましょう。
再生可能エネルギーの導入
再生可能エネルギーは、自然のエネルギー源を利用することで温室効果ガスの排出を抑える手段です。
太陽光発電や風力発電、水力発電などがその代表例であり、これらのエネルギー源は地球に無尽蔵に存在しています。
再生可能エネルギーの導入によって、化石燃料に頼らない持続可能なエネルギー供給を実現できるのです。
エネルギー効率の向上
エネルギー効率の向上は、同じ出力を得るために必要なエネルギー量を減少させることを意味します。
産業プロセスや建築物、交通機関など、あらゆる分野でエネルギーの効率的な利用が追求されています。
例えば、LED照明の導入や断熱材の改善などにより、小さな変化から大きなエネルギー削減が可能です。
カーボンキャプチャー技術
カーボンキャプチャー技術は、工場や発電所などから排出される二酸化炭素を回収し、地下に貯める技術です。
これによって、二酸化炭素の大気中への放出を防ぎ、カーボンニュートラルな社会を実現する手段の一つとされています。
研究と技術革新によって、より効率的で経済的なカーボンキャプチャー技術の開発が進められており、一部では既に実証実験も始まっているのです。
持続可能な交通手段の推進
自動車や航空機などの交通手段は、化石燃料の消費が大きな要因となるため、持続可能な代替手段の導入が求められています。
EV(電気自動車)やFCV(水素燃料電池車)など、排出ガスを抑えた車両の開発と普及が進められています。
また、公共交通機関の充実や自転車・徒歩などのエコフレンドリーな移動手段の促進も重要です。
森林の保全と再植林
森林は二酸化炭素の吸収源として重要であり、森林の減少は地球温暖化を加速させる要因となります。
そのため、森林の保全と再植林が脱炭素化の一環として行われています。
違法伐採の取り締まりや持続可能な森林経営、地域住民との連携などが重要な要素です。
脱炭素化に向け日本が掲げる目標
脱炭素化に向けて、日本は具体的な目標に向かって取り組みを進めていますが、おもに次の2つのプロジェクトを掲げています。
- グリーン成長戦略
- ゼロカーボンシティ
これらの目標は、温室効果ガスの排出削減や再生可能エネルギーの導入などを通じて、脱炭素化を推進するための指針となっています。
グリーン成長戦略
グリーン成長戦略とは、2050年カーボンニュートラル達成を目指すために、経済産業省が中心となって策定した産業政策・エネルギー政策です。
この戦略では、成長が期待される14の重要分野について、実行計画を策定し、国として高い目標を掲げています。
例えば、再生可能エネルギーの導入拡大や水素社会の実現などを推進中です。
また、予算、税、金融、規制改革・標準化、国際連携など、政策を総動員してイノベーションを創出することも目指しています。
グリーン成長戦略の具体例としては、以下のようなものがあります。
再生可能エネルギー
2030年に電源構成比で22~24%、2050年に50~60%を目指しています。
特に、洋上風力発電や太陽光発電の導入を拡大する方針です。
水素・燃料電池
2030年に水素需要を約30万トン、2050年に約2000万トンにする目標です。
また、水素価格を2030年に30円/㎥、2050年に20円/㎥にする目標を立てています。
さらに、燃料電池車や水素船などの普及を促進する方針です。
自動車
2030年に電動車(EV・PHV・FCV)の新車販売比率を50%以上、2050年に100%にする目標を立てています。
さらに、バッテリーやモーターなどの技術開発やインフラ整備を推進する方針です。
ゼロカーボンシティ
ゼロカーボンシティとは、地方公共団体が脱炭素に取り組むことを表明し、国から支援を受けて実現する取り組みです。
これは、地域の特性や課題に応じて、エネルギーの自給自足や低炭素交通などの施策を展開することで、カーボンニュートラル社会の先駆けとなることを目指しています。
現在、全国で30の市町村がゼロカーボンシティに表明しています。
ゼロカーボンシティの具体例としては、以下のようなものがあります。
北海道苫小牧市
苫小牧市では、水素社会の実現に向けて、水素製造・供給・利用という一貫したシステムの構築を目指しています。
具体的には、水素製造プラントや水素ステーション、水素バスなどを導入する方針です。
参考:苫小牧市公式サイト
愛知県豊田市
豊田市では、自動車産業と連携して、低炭素交通システムの構築を目指しています。
具体的には、EVやFCVの普及や充電インフラの整備、自動運転技術の開発などを推進する方針です。
参考:豊田市公式サイト
福岡県福岡市
福岡市では、都市型再生可能エネルギーの導入拡大を目指しています。
具体的には、太陽光発電やバイオマス発電などの分散型エネルギー源を活用し、エネルギーの自給自足率を高める方針です。
参考:福岡市公式サイト
脱炭素化に向け諸外国が掲げている目標と政策
脱炭素化に向けて、日本以外の国々もさまざまな目標や政策を掲げています。
ここでは、EU・英国・米国・中国の例を紹介します。
EU
EUは、2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すという野心的な目標を掲げています。
まず目指すのは、2030年までに1990年比で55%削減するという中期目標の達成です。
EUは、再生可能エネルギーの比率やエネルギー効率の改善など、具体的な施策を進めています。
さらに、排出量取引制度や炭素税の導入など、経済的なインセンティブも導入済みです。
EUは、脱炭素化を経済成長や雇用創出の機会とポジティブに捉えており、グリーンディールという包括的な戦略を展開しています。
英国
英国は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを義務とする法律を制定しました。
法制化により、2030年までに1990年比で68%削減するという世界最高水準の目標を掲げています。
具体的には、風力発電や水素エネルギーの拡大、自動車の電動化などを推進するとともに、産業界や地方自治体と協力して脱炭素化への移行を支援する方針です。
英国は、2021年11月に開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の議長国を務めたということもあって、世界的なリーダーシップを発揮しようとしています。
米国
米国は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという長期目標を掲げています。
まず目指すのは、2030年までに2005年比で50~52%削減するという中期目標の達成です。
具体的には、電力部門の脱炭素化やインフラ整備、イノベーション支援などを行うとともに、気候変動対策への国際協力や財政支援も強化しています。
米国は、バイデン政権の下で気候変動対策に再び取り組む姿勢を示しており、世界のパートナーとして期待されています。
中国
中国は、2060年までにカーボンニュートラルを達成するという長期目標を掲げています。
まず目指すのは、2030年までに排出量のピークアウト(これ以上増やさないというピークの設定)を達成するという中期目標です。
具体的には、再生可能エネルギーの割合やエネルギー消費強度の改善などを目指すとともに、石炭火力発電の削減や緑化事業なども行っています。
中国は、世界最大の温室効果ガス排出国ということもあって、脱炭素化への取り組みが国際社会から大いに注目されています。
産業界における脱炭素化への取り組み
産業界における脱炭素化への取り組みも、脱炭素社会実現の重要な要素で、持続可能な社会実現に向けて欠かせないものとなっています。
企業や業界ごとに異なる課題や可能性が存在しますが、それぞれが持つ専門知識や技術を活かして脱炭素化を進めることが、地球環境への貢献とビジネスの発展を両立させる鍵です。
ここでは、製造業・IT業界・金融業・自治体それぞれの脱炭素化への取り組みを紹介します。
さらに、GX(グリーントランスフォーメーション)に絡んだ脱炭素化の事例も紹介しています。
製造業の脱炭素化
製造業は、エネルギーの消費や排出量の面で多大な影響を持つ分野の一つです。
多くの企業が、製造プロセスの見直しやエネルギー効率の向上に取り組んでいます。
具体的には、省エネルギーな生産プロセスの導入や再生可能エネルギーの活用、排出量削減のための技術導入が行われています。
また、廃棄物のリサイクルや持続可能な資材の使用なども、重要な施策です。
製造業の脱炭素化の取り組みには、おもに以下のようなものがあります。
エネルギーの脱炭素化
再生可能エネルギーの導入や省エネルギー設備の更新などによって、工場のCO2排出量を削減する取り組みです。
製造工程の脱炭素化
CO2を排出しない工場機器に変更したり、製品や部品の設計や材料を見直したりする取り組みです。
温室効果ガスの測定・回収・相殺
自社のCO2排出量を正確に把握し、回収や相殺などでカーボンニュートラルを目指す取り組みです。
これらの取り組みは、脱炭素化と同時に、コスト削減やイノベーションなどのメリットも生み出します。
IT業界の脱炭素化
IT業界も急速なデジタル化の進展に伴い、エネルギー消費量が増加していますが、同時に脱炭素化の取り組みも進展しています。
具体的には、クラウドコンピューティングやデータセンターの省エネルギー化、再生可能エネルギーの導入、電子機器のリサイクルなどが行われています。
さらに、エネルギー効率の高いデバイスの開発や、電子機器の使用時間を最適化する取り組みも進行中です。
IT業界の脱炭素化の取り組みには、おもに以下のようなものがあります。
データセンターの省エネ化
再生可能エネルギーの活用や冷却システムの改善などで、データセンターの消費電力とCO2排出量を削減することです。
IoTやAIの活用
IoTやAIなどの技術を使って、他の産業や社会全体のエネルギー効率やCO2排出量を最適化することです。
カーボンニュートラルへの取り組み
自社のCO2排出量を測定し、回収や相殺などでカーボンニュートラルを目指すことです。
これらの取り組みは、脱炭素化と同時に、競争力やイメージなどのメリットも生み出します。
カーボンニュートラルについては、こちらの記事も参考にして下さい。
金融業の脱炭素化
金融業界も脱炭素化の動きに参加しており、エネルギーに関わるプロジェクトへの融資や投資を見直す動きが広がっています。
特に「ESG投資」(Environmental・Social・Governance)が注目されており、これは簡単に言うと、環境と社会に配慮した企業経営をする管理体制と、その投資のことです。
ESG投資は、環境面での持続可能な取り組みを評価する指標となっています。
金融機関が、投資や融資の判断材料として環境負荷を考慮することによって、脱炭素化を推進する一翼を担っているのです。
金融業の脱炭素化の取り組みには、おもに以下のようなものがあります。
トランジション・ファイナンス
低炭素・脱炭素化に向けた投資や活動を、金融機関が支援することです。
金融版SBT
金融機関が、自社や投融資先のCO2排出量を科学的に設定し、削減することです。
気候変動問題への銀行界の取組み
銀行が顧客企業と対話し、産業界と一体となった脱炭素化を実現することです。
これらの取り組みは、脱炭素化と同時に、気候変動リスクへの対応や持続可能な社会づくりに貢献します。
自治体の脱炭素化
地方自治体も、自身の領域内での脱炭素化に取り組んでいます。
具体的には、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの導入に加えて、住民への啓発活動や公共交通機関の拡充、地域の持続可能な開発などです。
各自治体ごとの特性や課題に応じた取り組みが行われており、地域全体での脱炭素社会の実現を目指しています。
自治体の脱炭素化の取り組みについては、後ほど事例を挙げて詳しく紹介します。
GXと企業の脱炭素化
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、脱炭素と経済活性化を同時に実現する取り組みです。
政府はGX実現に向けた基本方針や脱炭素成長型経済構造移行推進戦略を策定し、「成長志向型カーボンプライシング構想」や「GX脱炭素電源法」などの政策を打ち出しています。
企業での具体的な事例としては、以下のようなものがあります。
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、水素社会の実現に向けて、水素エネルギーの供給・利用・貯蔵・輸送などの技術開発や普及促進に取り組んでいます。
また、水素燃料電池車(FCEV)のミライや水素バスのSoraなどを開発・販売しています。
ソニー
ソニーは、2050年までに事業活動や製品の使用によるCO2排出量を実質ゼロにすることを目指しています。
具体的には、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー製品の開発などに取り組み中です。
また、環境教育や環境保全活動なども行っています。
パナソニック
パナソニックは、2030年までに自社のCO2排出量を2019年度比で50%削減することを目標としています。
具体的には、自社施設の省エネ化や再生可能エネルギーの導入、製品の省エネ化やリサイクル化などに取り組み中です。
また、社会貢献活動として、太陽光発電システムや電池などを使った災害支援や地域振興なども行っています。
脱炭素に向けた代表的な取り組み
ここでは、脱炭素に向けて実際に行われている取り組みの例を紹介します。
再生可能エネルギーの活用
再生可能エネルギーとは、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなど、自然のエネルギー源から発電するエネルギーです。
再生可能エネルギーは、化石燃料に比べてCO2排出量が少なく、気候変動の原因となる温室効果ガスの削減に貢献します。
また、再生可能エネルギーは国内で資源を確保できるため、エネルギー安全保障や地域経済の活性化にも効果的です。
日本政府は、2050年カーボンニュートラルを目指すために、再生可能エネルギーの主力電源化を推進しています。
2021年10月に発表された第6次エネルギー基本計画によれば、2030年までに再生可能エネルギーの電源構成比を36~38%に引き上げることが目標です。
具体的には、太陽光や風力などの導入拡大やコスト低減、送電網や蓄電池などのインフラ整備、地域との連携や社会的受容性の向上などの取り組みが進められています。
飛行機や車の燃料の脱炭素化
飛行機や車は、日常生活や経済活動に欠かせない移動手段ですが、同時に大量のCO2を排出する要因でもあります。
飛行機や車の燃料の脱炭素化は、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な課題です。
飛行機の場合は、持続可能な航空燃料(SAF)と呼ばれるバイオマスや廃棄物などから作られる代替燃料の導入促進が期待されています。
SAFは、従来の航空燃料と比べてCO2排出量が最大80%削減できるとされています。
日本政府は、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」で取りまとめた工程表に基づき、2030年時点で本邦エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換えることを目指す方針です。
具体的には、SAFの国内生産や供給体制の確立、国際的な調整や協力、規制や制度の整備などの取り組みを推進しています。
車の場合は、電気自動車(EV)や水素自動車(FCV)などの次世代自動車への移行が進行中です。
EVやFCVは、化石燃料を使わないため、CO2排出量がゼロまたは極めて少ないという特徴があります。
日本政府は、2030年までに新車販売台数の40~50%をEVやFCVにする方針です。
具体的には、EVやFCVの性能やコストの向上、充電や給油のインフラの拡充、普及促進のための補助金や税制優遇などの取り組みを実施しています。
政府や企業の取り組み
脱炭素の実現には、政府や企業だけではなく、組織や個人も積極的に参加することが必要です。
以下では、経済産業省・環境省・大企業・中小企業・地方自治体が行っている代表的な取り組みを紹介します。
経済産業省
経済産業省は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて「グリーンイノベーション戦略」を策定しました。
この戦略では、再生可能エネルギー、水素・燃料電池、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)、核融合などの革新的技術の開発・普及を推進することで、2050年までにCO2排出量を80%削減することを目指しています。
また、経済産業省は、「グリーンイノベーションファンド」を創設しました。
このファンドは、カーボンニュートラルに貢献する技術や事業を持つ中小企業やベンチャー企業に対して、無利子・無担保で最大10億円の融資を行うことで、イノベーションの創出を支援するものです。
参考:経済産業省
環境省
環境省は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて「グリーンディール政策パッケージ」を発表しました。
このパッケージでは、自然エネルギーの導入促進やエネルギー効率化の推進、循環型社会の構築や生物多様性の保全・回復などの取り組みを展開することで、2050年までにCO2排出量を95%削減することを目指しています。
また、環境省は、「カーボンニュートラル宣言」を行う自治体や企業・団体に対して、「カーボンニュートラル推進パートナーシップ」に参加するよう呼びかけています。
このパートナーシップでは、カーボンニュートラルに向けた具体的な目標や計画を公表し、その達成状況を定期的に報告することで、相互の学びや協力を促進することができます。
参考:環境省
大企業の取り組み
日本の大企業の多くは、脱炭素に向けた自主的な取り組みを行っていますが、ここでは米国Apple社も含めた4社の事例を紹介します。
株式会社リコー
リコーは、自社のCO2排出量を2030年までに2019年度比で63%削減することを目標としています。
具体的には、自社施設や製品の省エネ化や再生可能エネルギーの導入、海上輸送コンテナの混載率向上などに取り組んでいます。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、自社のCO2排出量を2030年までに2013年度比で30%削減することを目標としています。
具体的には、店舗や物流センターの省エネ化や太陽光発電システムの導入、商品の包装や配送の見直し、食品ロスの削減などに取り組んでいます。
Apple
Appleは、自社およびサプライチェーン全体のCO2排出量を2030年までに実質ゼロにすることを目標としています。
具体的には、自社施設や製品の再生可能エネルギーの100%利用や省エネ化、リサイクル素材の使用や廃棄物削減などに取り組んでいます。
日本航空株式会社
日本航空は、2030年までにSAFの使用量を100万リットル以上に増やし、2050年までにCO2排出量を2005年比で50%削減することを目標としています。
中小企業の取り組み
日本の中小企業も、脱炭素に向けた様々な取り組みを行っていますが、ここでは4社の事例を紹介します。
株式会社エコワークス
エコワークスは、廃棄物からバイオガスや堆肥を生産する事業を展開しており、地域の資源循環や再生可能エネルギーの普及に貢献しています。
株式会社ミヤマ
ミヤマは、水素燃料電池システムや水素発生装置などの製品開発や販売を行っており、水素社会の実現に向けた技術革新に取り組んでいます。
株式会社二川工業製作所
二川工業製作所は、自社のCO2排出量を2030年までに2013年度比で50%削減することを目標としています。
具体的には、自社工場のLED照明や太陽光発電システムの導入、製品の省エネ化やリサイクル化などに取り組んでいます。
株式会社大川印刷
大川印刷は、自社のCO2排出量を2030年までに2013年度比で30%削減することを目標としています。
具体的には、自社施設の省エネ化や太陽光発電システムの導入、印刷用紙の再生紙化や廃棄物削減などに取り組んでいます。
地方自治体の取り組み
日本の地方自治体も、脱炭素社会の実現に向けて積極的な取り組みを行っています。
ここでは、北海道・東京都・福岡県の3つの自治体の取り組みの例を紹介します。
北海道
北海道は「北海道グリーンディール戦略」を策定しました。
この戦略は、再生可能エネルギーの導入拡大やエネルギー管理システムの構築、森林・農地・湿地などの自然資源の保全・活用などの取り組みを進めるものです。
2050年までに、CO2排出量を80%削減することを目指しています。
参考:ゼロカーボン北海道
東京都
東京都は「東京都気候変動対策計画」を策定しました。
この計画は、再生可能エネルギーの導入促進やゼロエミッションビークルの普及、都市緑化や熱中症対策などの取り組みを進めるものです。
2050年までに、CO2排出量を80%削減することを目指しています。
参考:東京都環境局
福岡県
福岡県は「福岡県カーボンニュートラル宣言」を行いました。
この宣言は、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネルギーの推進、農林水産業や観光業などの持続可能な発展などの取り組みを進めるものです。
2050年までに、CO2排出量を90%削減することを目指しています。
参考:福岡県の地球温暖化対策
脱炭素化に向けて個人ができる取り組み
脱炭素化に向けて個人ができる取り組みとして、以下の例がありますが、それぞれについて詳しく説明していきます。
移動手段の選択
脱炭素化につながる移動手段としては、おもに次のような選択があります。
- エコドライブ
- EVへの乗り換え
- 公共交通機関の利用
- 自転車や徒歩の選択
これらの取り組みは、自動車の使用を減らすことにより、燃料の消費やCO2の排出を抑えられます。
エコドライブとは、無駄なアクセルやブレーキを避けたり、空気圧や荷物を適切に管理したりすることにより、燃費を向上させる運転方法です。
公共交通機関や自転車、徒歩は、自動車よりもエネルギー効率が高く、CO2排出量が少ない移動手段です。
個人の移動においては、自動車の代わりに公共交通機関や自転車を利用することにより、交通に伴う二酸化炭素排出を減少させられます。
また、EV(電気自動車)への乗り換えも一つの選択肢で、これらは皆、持続可能な交通手段と言えます。
家庭での脱炭素化の取り組み
各家庭でできる脱炭素化の取り組みは、おもに次の4つです。
これらの取り組みは、家庭でのエネルギー消費を減らすことで、CO2の排出を抑えることができます。
- LED照明の使用
- 省エネ家電の使用
- 断熱材の使用
- 電気・ガス・水道などの節約
LED照明は、白熱電球や蛍光灯よりも消費電力が少なく、寿命も長い照明器具です。
省エネ家電は、エネルギー使用効率(EER)や年間消費電力量(APF)などの基準に基づいて評価された家電製品で、使用すれば電気代を抑えられます。
また、断熱材を利用することも脱炭素化に有効です。
電気・ガス・水道などの節約は、こまめにスイッチやコンセントを切って電気機器の無駄な待機消費を減らしたり、温度設定や使用時間を調整したりすることで行えます。
各家庭が省エネルギーの習慣を取り入れることによって、国家全体のエネルギー消費を減少させられます。
使用する電力源の見直し
再生可能エネルギーの導入や、グリーン電力への契約変更も脱炭素化に有効です。
化石燃料に依存しないエネルギー源を利用することで、CO2の排出を抑えられます。
再生可能エネルギーとは、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどの自然エネルギーを利用した発電方法です。
グリーン電力とは、再生可能エネルギーによって発電された電力を供給するサービスで、既に多くの新電力会社が起業しています。
自宅や事業所の電力供給を、太陽光発電などの再エネに切り替えることで、化石燃料による電力消費の削減が可能です。
既に多くの地域で、再エネに切り替えるためのオプションが提供されています。
リサイクルやリユースの実施
3R(Reduce・Reuse・Recycle)と呼ばれるリサイクルも、脱炭素化に有効です。
これらの取り組みは、資源の消費や廃棄物の発生を減らすことで、CO2の排出を抑えることができます。
Reduce(リデュース)とは、必要以上に物を買ったり使ったりしないことです。
Reuse(リユース)とは、物を使い捨てにせずに再利用したり修理したりすることです。
Recycle(リサイクル)とは、物を分別して回収したり再生したりすることです。
プラスチック製品の使用を減らし、再利用可能な商品を選ぶことで、プラスチックごみの発生を削減できます。
また、正しいリサイクル方法を実践して、廃棄物の量を減少させることも重要です。
食品の選択
食品の選択においては、ローカルフードやオーガニックフードを中心に消費するという方法が脱炭素化に有効です。
これらの取り組みは、食品の生産や流通に伴うCO2の排出を減らすことができます。
ローカルフードとは、地元で生産された食品や地産地消の取り組みです。
オーガニックフードとは、化学肥料や農薬を使わずに栽培された食品や有機農業の取り組みです。
自然環境の保全・回復
地域の植樹や緑化など、自然環境の保全や回復もまた、脱炭素化に有効です。
これらの取り組みは、植物が光合成によってCO2を吸収することで、大気中のCO2濃度を低下させられます。
植樹とは、文字通り木を植えることで、最近では市街地の中でも植樹が積極的に行われています。
緑化とは、広い範囲に植樹を行うことで、都市部や砂漠化した地域などに緑を増やすことができ、景観の美化にも効果的です。
地域づくりへの参加
地域コミュニティの活動に参加し、環境にやさしいイベントや取り組みに協力することも、地域全体での脱炭素化を推進する一助となります。
清掃活動や再生可能エネルギーの導入促進など、地域の持続可能な未来への貢献が期待されます。
脱炭素とよく似た用語との違い
脱炭素には、意味がよく似た用語がいくつかあります。
ここでは、脱炭素と「カーボンニュートラル・低炭素・GX」の3つの用語それぞれとの違いを解説します。
脱炭素とカーボンニュートラルの違い
脱炭素とカーボンニュートラルは、どちらも環境保護と持続可能な社会の実現を目指す概念ですが、その違いと双方の意義を深く理解することは重要です。
脱炭素とは、二酸化炭素(CO2)やその他の温室効果ガスの排出を減少させる取り組みを指します。
化石燃料の使用を削減し、再生可能エネルギーの導入を通じて実現される取り組みです。
一方でカーボンニュートラルとは、排出される温室効果ガスの量を削減し、残った排出を吸収する手段を通じて、排出量と吸収量をバランスさせることを指します。
この違いが重要なのは、脱炭素は温室効果ガスの排出量を減少させる一方、カーボンニュートラルは排出と吸収をバランスさせる点です。
両者はいずれも地球温暖化の防止に寄与しますが、カーボンニュートラルは残った排出を取り除くアプローチも含むため、より徹底的な温室効果ガスの削減が求められます。
カーボンニュートラルについては、こちらの記事も参考にして下さい。
脱炭素と低炭素はどう違う?
脱炭素と低炭素はよく似た用語ですが、それぞれのアプローチに明確な違いがあります。
脱炭素は、温室効果ガスの排出を極力ゼロに近づけることを目指すものであり、再生可能エネルギーや省エネルギー技術の採用などが含まれます。
一方、低炭素は排出量を削減することに主眼を置きつつ、完全な排出ゼロを求めないアプローチです。
例えば、低炭素交通手段では燃費の向上や電気自動車の普及などで排出を削減しますが、脱炭素交通手段では公共交通の拡充やゼロエミッション車の導入などで排出を極力ゼロに近づけることを目指します。
どちらのアプローチも地球環境保護の一環ですが、その強度や効果に違いがあるのです。
脱炭素とGXの違いは?
脱炭素化とGX(グリーントランスフォーメーション)は、共に持続可能な未来を目指す取り組みですが、そのアプローチやスコープには違いがあります。
脱炭素化は、炭素排出量の削減に焦点を当てた取り組みであり、エネルギー転換や産業構造の変革を含むものです。
一方GXは、より広範な持続可能性に関する改革を指し、エネルギーだけではなく社会全体の変革を目指します。
例えば社会的な公正や経済的な包摂も含まれ、単に環境だけではなく社会全体の課題にも取り組むものです。
GXのアプローチは、脱炭素化が環境だけに焦点を当てるのに対し、より包括的な変革を提案しています。
GXについては、こちらの記事も参考にして下さい。
まとめ:脱炭素社会化に向けて政府・企業・個人が一丸となって取り組みましょう
脱炭素化は、現代社会が直面する最大の課題の一つであり、その重要性はますます高まっています。
地球温暖化や気候変動の影響を緩和し、地球環境を守るためには、政府・企業・個人の協力が不可欠です。
再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上、カーボンキャプチャー技術の発展、持続可能な交通手段の普及、森林の保全と再植林など、多岐にわたる取り組みが求められています。
地球全体で連携し、脱炭素化に向けた努力を続けることが、持続可能な未来への道を切り拓く鍵となるでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!