「曲がる太陽電池」ペロブスカイト太陽電池というものをご存知でしょうか?
最近ニュースで時々報道されているので、見かけたことがある方も多いと思います。
この記事では、曲がる太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」とは何かということから、メリットや課題、実用例までをご紹介しています。
「ペロブスカイト太陽電池」について全くご存知ではない方や、初心者の方にも分かるように、できるだけ簡単な言葉で解説しているので、ぜひご一読ください。
ペロブスカイト太陽電池とは
「曲がる太陽電池」ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力教授が発明した新しいタイプの太陽電池です。
2009年に最初のペロブスカイト太陽電池が作られて以来、改良が繰り返されており、今や次世代の太陽電池として大いに期待されています。
ペロブスカイト太陽電池が注目されるようになった理由と、その仕組みを見てみましょう。
ペロブスカイト太陽電池が注目されている理由
ペロブスカイト太陽電池が注目されている理由は、近い将来のカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの活用がより一層重要になってきたことです。
再生可能エネルギーの中心であった太陽光発電が普及するにつれて、より扱いやすいものを求める声が増えてきました。
「もっと軽くて、さまざまな場所に設置できる形にできないだろうか?」という研究者の疑問から生まれたのが「曲がる太陽電池」。
2009年に宮坂教授が最初の論文を発表しましたが、当初はあまり注目されませんでした。
しかし、それまでは「曲げられる」という特徴を持つ太陽電池は存在しなかったため、徐々にその価値が認められるようになりました。
今では世界中の研究者に注目され、一部の国ではすでに実用化もされています。
すでにペロブスカイト太陽電池の研究が盛んになり、論文も数多く発表されているので、さらなる技術の進歩が期待できるでしょう。
ペロブスカイト太陽電池の仕組み
ここでは、ペロブスカイト太陽電池の仕組みを簡単に解説します。
まず、ペロブスカイトという名称は、この太陽電池の素材として使われている結晶の形から来ています。
「ペロブスカイト構造」と呼ばれる結晶は、下図のような構造です。
引用:科学技術振興機構
ペロブスカイト太陽電池は、このペロブスカイト結晶を半導体の材料として使用しています。
ペロブスカイト結晶にはヨウ素と鉛の化合物が使用されており、電圧をかけるとLEDのように発光します。
この原理に着目した宮坂教授の研究チームが、逆に光を当ててみると発電することを発見し、ペロブスカイト太陽電池が生まれました。
発明当初は発電効率が低く、一般的なシリコン太陽電池の5分の1程度しかありませんでしたが、現在では同レベルに近い発電効率にまで改良されています。
ペロブスカイト太陽電池のメリット
ペロブスカイト太陽電池には、おもに次の5つのメリットがあります
- 軽くて薄い
- 曲げられる
- 弱い光でも発電できる
- 従来の太陽電池と同等の発電効率がある
- コストが抑えられる
以下で、それぞれのメリットの詳細を順に解説します。
軽くて薄い
ペロブスカイト太陽電池は、従来の太陽電池と比べてはるかに軽くて薄い材質です。
一般的な太陽電池モジュールはガラスを使用しているため、1㎡あたりおよそ11~13kgもあります。
一方、ペロブスカイト太陽電池はガラスを使用していないので、1㎡あたり250g程度という軽さなのです。
これほど重量に差があると、今まで設置が難しかった場所にも太陽電池を設置できるようになるでしょう。
例えば、複層ガラスの中間層にペロブスカイト太陽電池を挿入するという方法も可能です。
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曲げられる
ペロブスカイト太陽電池はフィルムのような形状をしており、曲げることができます。
なぜ曲げることができるかというと、ペロブスカイト結晶が「有機溶剤に溶ける」という特徴を持っているからです。
有機溶剤とは、例えばガソリンや灯油などの石油や、シンナーなどのことです。
有機溶剤によって結晶が溶け、柔らかくなったペロブスカイト太陽電池は、設置したい場所の形状に合わせて曲げることができます。
弱い光でも発電できる
ペロブスカイト太陽電池は、室内の光のような弱い光でも発電することができます。
さらに、従来の太陽電池モジュールでは雨天時に発電効率が大きく落ちるのに対し、ペロブスカイト太陽電池は少しの雨程度なら発電効率に大差はありません。
このメリットは、例えば雨による災害で停電したときなどに威力を発揮するでしょう。
従来の太陽電池と同等の発電効率がある
ペロブスカイト太陽電池は、一般的なシリコン太陽電池と同じくらいの発電効率があります。
実は、ペロブスカイト太陽電池に似た技術は以前から存在していましたが、発電効率が低かったため普及しませんでした。
しかし、宮坂教授の発明したペロブスカイト太陽電池は20%以上の発電効率を達成しており、太陽光発電設備として十分に実用化できるレベルにあります。
コストが抑えられる
ペロブスカイト太陽電池は、一般的なシリコン太陽電池よりもコストを抑えられます。
なぜなら、ペロブスカイト結晶のおもな材料がヨウ素と鉛なので、他の半導体のような希少な金属を使用しないからです。
ヨウ素は日本が世界第二位の産出量を持つため自給可能で、鉛はリサイクルしやすい金属なため輸入に大きく依存する必要がありません。
近い将来、ペロブスカイト太陽電池の大量生産が可能になれば、シリコン太陽電池の半額以下のコストで生産できると言われています。
ペロブスカイト太陽電池の課題
メリットの多いペロブスカイト太陽電池ですが、本格的な実用化に向けてクリアしなければならない課題がいくつかあります。
ペロブスカイト太陽電池が抱える課題は、おもに次の3つです。
- 耐久性
- 品質の安定
- 国際競争力
以下で、それぞれの課題の詳細を順に解説します。
耐久性
現在のペロブスカイト太陽電池は、まだ長期間の使用に耐えられるほどの耐久性がないという問題があります。
その原因は、素材の薄さや柔らかさもありますが、結晶の崩れやすさもその一つです。
ペロブスカイト結晶は水分や酸素に弱いため、慎重な取り扱いが求められます。
一般的なシリコン系太陽電池の寿命は20~30年あるので、耐久性の差を埋めることが今後のペロブスカイト太陽電池の普及の鍵になるでしょう。
品質の安定
ペロブスカイト太陽電池は先述のように結晶が崩れやすいため、品質を安定させることが難しいという課題があります。
近い将来、安価に大量生産するのであれば、製品の品質を安定させなければ収益化は難しいでしょう。
すでに中国・英国・ポーランドなどの企業でペロブスカイト太陽電池が実用化されており、日本でも一日も早い品質の安定化が求められます。
国際競争力
日本発の技術であるペロブスカイト太陽電池ですが、すでに世界中で開発競争が始まっており、日本は厳しい立場に立たされています。
特に中国企業の勢いは凄まじく、巨額の投資をつぎ込んで優位に立っている状況です。
日本は過去に半導体や太陽電池モジュールなどでも、開発初期には世界をリードしていながら他国に逆転されてしまったことがありました。
今回のペロブスカイト太陽電池では政府も強く後押ししており、同じ轍を踏まないように国際競争を勝ち抜いてもらいたいものです。
ペロブスカイト太陽電池の実用化は?
日本でのペロブスカイト太陽電池は、東芝・パナソニックHD・カネカ・アイシン・積水化学工業などの企業が実用化に向けて開発を進めています。
引用:東芝エネルギーシステムズ
それらの企業の開発を、経済産業省・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)・産総研(産業技術総合研究所)などが後押ししているという形です。
このように、ペロブスカイト太陽電池は実用化まであと一歩というところまで来ています。
実用化の一例として、JR西日本が新設する「うめきた(大阪)地下駅」(大阪市)に、積水化学がペロブスカイト太陽電池を設置すると発表しました。
「うめきた(大阪)地下駅」は2025年の開業を予定しています。
実現すれば、ペロブスカイト太陽電池の公共施設への設置は世界初となる見込みです。
ペロブスカイト太陽電池の最新情報
滋賀県大津市のアイ. エス. テイ(I.S.T)は、桐蔭横浜大学(宮坂研究室)と協力して、透明ポリイミドを用いたペロブスカイト太陽電池の開発に着手しました。この新素材「TORMED(トーメッド)」を活用し、高温処理に耐えられるペロブスカイト太陽電池を実現することを目指しています。
ペロブスカイト太陽電池は、その軽量性と柔軟性により、ビルの壁面や小さな耐荷重の屋根、車体など、さまざまな場所に設置できる次世代太陽電池として注目されています。しかし、柔軟性の高いペロブスカイト太陽電池を製造する際、基板には軽量でフレキシブルな特性を持つポリエステル(PET)が一般的に使用されます。ただし、PET基板の耐熱性は約200℃程度であり、基板上で形成される電子輸送層などの成膜プロセスには、PET基板の耐熱性を考慮した方法を選択する必要があります。
一方、I.S.Tが開発したポリイミドフィルムのTORMEDは、耐熱性が約300℃と一般的なPET素材よりも高く、柔軟性と溶剤耐性も兼ね備えています。通常、電子部品や半導体に使用されるポリイミド素材は琥珀色ですが、TORMEDは可視光透過率が88%以上であり、採光性にも優れています。さらに、自社開発の製造装置により、連続ロールフィルム形状で供給することも可能です。
I.S.Tは桐蔭横浜大学の宮坂研究室と共同で、このTORMEDを基板素材に採用したペロブスカイト太陽電池の開発を進めています。耐熱性に優れるTORMEDを基板素材に使用することで、成膜プロセスの選択肢が広がり、太陽電池の性能向上の可能性があります。今後は学術的な検証と試作を進め、数年後にはフィールド実証にも取り組む予定です。
なお、TORMEDは既に2024年2月から本格的に外販が開始されており、フレキシブルプリント基板などだけでなく、スマートグラスやタッチパネル、Mini LED、Micro LEDなどのディスプレイ分野にも幅広く適用されているとのことです。
ペロブスカイト太陽電池の開発においては、これからも日本が世界をリードしていってもらいたいですね。
【まとめ】ペロブスカイト太陽電池は純国産の次世代太陽光発電!
日本で生まれたペロブスカイト太陽電池が、次世代の太陽光発電として世界中で大きな期待を受けています。
近い将来、思いもよらない形でペロブスカイト太陽電池が身近な存在になるかもしれません。
しかし、せっかくの国産技術も後発の諸外国企業の勢いに押されており、日本は厳しい状況です。
ペロブスカイト太陽電池で再び世界をリードできるように、国内企業にも頑張っていただき、巻き返しに期待しましょう。