超臨界地熱発電は、従来の地熱発電よりもはるかに高い効率で発電できる可能性を秘めた最新技術です。しかし、名前からして難しそうに感じるかもしれません。本記事では、「超臨界地熱発電とは何か?」を、初めて聞く方にも分かりやすいようにやさしく解説していきます。
地熱発電の基本
まずは、地熱発電の基礎知識を簡単におさらいしておきましょう。
地熱発電とは?
地熱発電とは、地下の熱を利用してタービンを回し、電気を作る方法です。
具体的には、地下のマグマに温められた高温の水や蒸気を使って発電を行います。
地熱発電の基礎知識を知りたい方は、こちらの記事も参考にして下さい。
地熱発電の種類
地熱発電にはいくつかの方式があります。
- フラッシュ発電:地下の高温の蒸気を使って直接タービンを回す方式。
- バイナリー発電:地下の熱で水以外の低沸点の液体を蒸発させ、その蒸気でタービンを回す方式。
- 超臨界地熱発電:より高温・高圧の地下流体を利用する最新の技術。
バイナリー発電について知りたい方は、こちらの記事も参考にして下さい。
これから解説する「超臨界地熱発電」は、地熱発電の中でも特に高効率な方式です。
超臨界地熱発電とは?

引用:NEDO
超臨界地熱発電とは、非常に深い地下の強大な熱エネルギーを利用して電力を生み出す再生可能エネルギーの一種です。約5,000メートルの地下深部には、超臨界状態と呼ばれる高温・高圧の流体が存在します。この状態の流体は、液体と気体の性質を併せ持ち、高いエネルギー密度を持つため、発電効率の向上が期待されています。
「超臨界」とは?
「超臨界」とは、特定の温度と圧力を超えると、液体でも気体でもない特殊な状態になることを指します。
例えば、水は通常100℃で沸騰して蒸気になります。しかし、もし水を374℃以上、22.1MPa(メガパスカル)以上の圧力にすると、「液体でも気体でもない超臨界状態」になります。
超臨界状態の水は、通常の蒸気よりもエネルギーが高く、発電効率を向上させることができます。
超臨界地熱発電の仕組み
超臨界地熱発電は、地下深く(約3,000~5,000m)に存在する超臨界状態の熱水や蒸気を利用します。
- 地下の超臨界流体を取り出す:
- 地球内部の熱で超臨界状態になった水や蒸気を取り出します。
- タービンを回して発電:
- 超臨界流体のエネルギーを利用してタービンを高速で回転させ、発電機で電気を作ります。
- 再注入:
- 使用後の流体を再び地下に戻し、持続可能なエネルギー供給を目指します。
超臨界地熱発電のメリット
超臨界地熱発電には、おもに以下のようなメリットがあります。
高い発電効率
通常の地熱発電と比べて、超臨界流体はより多くのエネルギーを持つため、発電効率が向上します。
CO₂排出が少ない
化石燃料を使わないため、超臨界地熱発電は二酸化炭素(CO₂)の排出が極めて少ないクリーンなエネルギーです。
安定したエネルギー供給
太陽光や風力と違い、24時間発電可能で、天候に左右されません。
超臨界地熱発電の課題
超臨界地熱発電の実現を目指すためには、以下のような課題の克服が求められています。
掘削技術の難しさ
超臨界状態の流体を取り出すには、通常よりも深い地下(3,000~5,000m)を掘削する必要があります。これは高い技術力とコストが必要です。
耐久性のある設備の開発
超臨界流体は非常に高温・高圧のため、設備の耐久性が課題となります。
環境への影響
地震のリスクや地下資源の管理など、環境への影響を慎重に評価する必要があります。
日本における超臨界地熱発電の取り組み
日本でも、超臨界地熱発電の研究が進められています。ここでは以下の3つの取り組みをご紹介します。
- NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクト
- 超臨界地熱発電の実証実験を推進。
- 秋田大学の研究
- 秋田県で超臨界地熱発電の試験掘削を実施。
- 産総研(産業技術総合研究所)の研究
- 超臨界地熱発電の技術開発を行い、実用化に向けた研究を進めている。
NEDOのプロジェクト

引用:NEDO
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、超臨界地熱発電の実現に向けて、以下の3つの研究開発テーマを新たに採択しました。
- 超臨界地熱資源の評価と調査井に必要な仕様の詳細設計:秋田県湯沢市南部地域における資源評価と発電可能量の推定を行います。
- 調査井の資材(ケーシング材およびセメント材)等の開発:高温・高圧環境に耐えるケーシング材とセメント材の開発を進めます。
- 超臨界地熱貯留層のモデリング技術手法開発:熱・水・力学・化学の各挙動を再現する数値シミュレーション技術を開発します。

引用:NEDO
これらの取り組みにより、超臨界地熱発電の実現に向けた技術的課題の解決が期待されています。
参考:NEDO
秋田大学の研究
秋田大学は、地熱エネルギーの新たな可能性を探るため、超臨界地熱発電の研究に取り組んでいます。この技術は、地下深部の高温・高圧な環境を利用して、従来の地熱発電よりも高効率な発電を目指すものです。
秋田大学では、超臨界地熱発電の実現に向けて、以下の研究開発を進めています。
- 耐高温・耐腐食性セメント材の開発
地下深部の高温・高圧環境下で使用されるセメントは、長期間にわたり安定した強度を保つ必要があります。従来のセメント材は、500℃の高温や酸性ガスによる腐食に弱いため、これらの過酷な条件でも性能を維持できる新しいセメント材の開発が進められています。 - 耐腐食性ケーシング材の開発
ケーシングとは、掘削した坑井の内壁を補強するための鋼管のことです。地下深部では、酸性ガスの影響でケーシングが腐食しやすくなるため、耐腐食性の高い材料の開発が求められています。 - 高温高圧反応容器を用いた実験
実際の坑井と同程度の温度・圧力条件を再現できる高温高圧反応容器を導入し、セメントやケーシング材の耐久性試験を行っています。これにより、実環境下での材料の性能評価が可能となります。
今後の展望
今後5年間で、実際に400℃の地熱水が得られるかを確認するための調査掘削が計画されています。具体的な調査地域として、秋田県湯沢市の小安、岩手県八幡平の安比と葛根田、大分県九重町が選定されています。特に、葛根田地域では1995年に世界で初めて3,700メートルの掘削で500℃の地熱水が確認されており、期待が高まっています。
参考:秋田大学
産総研の研究

引用:産総研
産業技術総合研究所(産総研)は、超臨界地熱発電の研究開発を積極的に進めています。この技術は、地下深部に存在する高温・高圧の超臨界状態の水を利用して発電するもので、将来的には数ギガワット(GW)から数百GWの発電が可能とされています。
産総研の地熱チームは、国内の研究者をリードし、沈み込み帯に起源を持つ超高温・高圧の超臨界地熱資源の開発可能性を探求しています。これにより、2040年以降に大規模なベースロード電源としての利用を目指しています。
産総研では、超臨界地熱発電の実現のために、以下のような科学的・技術的課題の克服を目指しています。
- 地下貯留層の最適作成・制御技術の開発:室内実験やシミュレーターの開発を通じて、水圧刺激や注水による貯留層の最適な作成・制御技術を開発し、地域に依存しない持続可能な開発・利用方法を導き出します。
- 地下現象の解明と可視化:地震や電磁波信号の高度解析手法の開発に加え、MEMSや光ファイバーなどを利用した高機能センシングシステムの開発を進め、地下数キロメートルの貯留層内で生じている現象の解明と可視化を実現します。
- AIやIoT技術の導入:温泉と地熱発電の共生を目指したモニタリングシステムや蒸気生産量の監視・評価システム、さまざまな目的に対応する次世代型の地熱資源量評価法を実現するため、AIやIoT技術の導入を進めています。
研究成果と今後の展望
産総研は、国内の複数地点で物理探査や地質学的情報の収集を行い、超臨界地熱システムの性状を明らかにするとともに、商用発電の実現可能性を示しています。現在、有望地での試掘を目指した詳細調査を実施しており、2050年以降のクリーンエネルギーとしての超臨界地熱発電の実現に向けて研究開発を進めています。
参考:産総研
超臨界地熱発電の未来の展望
超臨界地熱発電は、
- 高効率
- 低炭素
- 安定供給
といった特徴を持つ、未来のエネルギー技術です。
しかし、まだ技術的な課題やコストの問題があり、実用化にはさらなる研究開発が必要です。今後、掘削技術や耐久性の向上が進めば、世界中で超臨界地熱発電が普及し、持続可能なエネルギー供給の柱となる可能性があります。
まとめ
超臨界地熱発電は、地下深くの超臨界流体を利用した高効率な発電技術です。
- 超臨界流体は液体と気体の中間状態で、大きなエネルギーを持つ。
- 従来の地熱発電よりも高効率で、環境に優しい。
- 掘削技術や設備の耐久性が課題だが、日本でも研究が進んでいる。
今後、技術が発展すれば、超臨界地熱発電は再生可能エネルギーの新たな主力として期待されるでしょう。