偶然通りかかった場所で「水素ステーション」を発見し「これは一体なんだろう?」と思った方もいるでしょう。
初心者の方にとっては、自分には関係ないと思って、気にも留めていない方も多いのではないでしょうか。
しかし、ガソリンなどの異常な価格高騰を考えると、水素ステーションを知らないでいると近い将来に困ることになるかもしれません。
この記事では「水素ステーション」とは何かということから、メリット・課題まで、初歩的なことを分かりやすく解説します。
水素ステーションとは
水素ステーションとは、「燃料電池車(FCV)」が燃料として使用する「水素」を補給するための施設です。
環境に優しい施設ということで、電気自動車の充電設備などと同じ「エコ・ステーション」の一種に挙げられています。
燃料電池車とは
燃料電池車とは、「水素」と「酸素」の化学反応を利用して発電することにより走行できる自動車です。
この化学反応は、中学校の理科の授業で習う「水の電気分解」の逆反応で、仕組み自体はとてもシンプルなものです。
近年の世界的な「脱炭素化」の流れを受けて開発された新しいタイプの自動車で、日本では2002年に市販車の販売が始まりました。
2003年からは一部で燃料電池バスの運行も始まり、2014年にはトヨタから「MIRAI」が発売され、燃料電池車は本格的に市場に流通するようになりました。
燃料電池の技術は鉄道にも応用され、近い将来の実用化が期待されています。
水素ステーションの仕組み
画像引用:日本産業・医療ガス協会
水素ステーションには、ガソリンスタンドで車両への燃料供給に使用される「計量器」によく似た「ディスペンサー」という設備があります。
ディスペンサーには、車両へ水素を供給するためのノズルが設置されています。
では、燃料となる水素はどこに貯蔵されているのでしょうか。
水素は私たちが生活する常温では気体なので、そのまま貯蔵することは困難です。
そこで、「圧縮機」という設備で高い圧力をかけて圧縮し、体積を小さくした状態で「畜圧器」と呼ばれるボンベに貯蔵しています。
また、水素ステーションには大きく分けて2種類があります。
1つは、都市ガスやLPガスを使用して水素をステーション内で製造し、車両へと供給する「オンサイト式ステーション」です。
もう1つは、外部工場で製造された水素をステーションに運搬し、貯蔵して車両に供給する「オフサイト式ステーション」です。
水素ステーションの設置場所
水素ステーションは2022年10月現在、全国に173ヶ所設置されています。
設置場所は都市部に多く分布し、都市部から離れるにつれて設置が少なくなり、まだ設置されていない県もあります。
引用:燃料電池実用化推進協議会
政府は2030年までに1000ヶ所の水素ステーション設置を目標に掲げており、現在も着々と増え続けているのです。
水素ステーションのメリット
水素ステーションには、次のようなメリットがあります
- CO2を排出しない
- 自然発火する温度が高い
- 空気と比べて非常に軽い
- 液体化して運搬できる
それぞれを順に解説します。
CO2を排出しない
水素ステーションを利用する燃料電池車は、走行時にCO2を排出しません。
一方で、現在も主流となっているガソリン車とディーゼル車は、化石燃料を燃焼させて走行するため、CO2を排出します。
燃料電池車の普及はまだあまり進んでいませんが、将来的には有効な選択肢の一つになることが期待されています。
自然発火する温度が高い
「水素は爆発するから危険」というイメージをお持ちの方も多いでしょう。
しかし、実際には自然発火する温度が527℃と高温なため、適切な扱い方をすれば事故を防ぐことができます。
空気と比べて非常に軽い
水素の重さは空気の約14分の1で、最も軽い気体です。
なぜ軽いことがメリットになるかというと、水素が空気中に漏れ出したとしても、すぐに拡散してしまうからです。
空気中ですぐに薄まってしまうため、ガソリンなどと比べると着火しにくいと言えます。
液体化して運搬できる
水素は-253℃まで温度を下げると液化するため、液体として輸送することができます。
液体になった水素は、体積が気体と比べて1/800となり、一度に多くの量を輸送することが可能です。
水素ステーションの抱える課題
水素ステーションが現在抱える問題は、次のようなものがあります。
- コストがかかる
- 製造過程などでCO2を排出する
- インフラの整備が不足している
- 設置する地域の住民への理解が必要
それぞれを順に解説します。
コストがかかる
現在、水素ステーションで供給される水素の価格は、2022年8月時点で1210円/kgとなっています。
この単価で燃料電池車「MIRAI」に水素をフル充填した場合の価格は約6700円となり、現在のハイオクガソリンとほぼ同じ価格帯になります。
政府が「2030年に水素の価格1/3」という目標を掲げているので、将来的には現在よりも安く利用できるようになることが期待されています。
製造過程などでCO2を排出する
燃料電池車そのものは走行時にCO2を排出しませんが、水素を製造する過程でCO2が発生します。
具体的には、火力発電によって得られた電力を利用して製造するためで、世界で製造されている水素の約95%に該当すると言われています。
インフラの整備が不足している
エネルギーを利用するためには、水素ステーションのような供給施設だけではなく、製造工場・輸送車両・貯蔵場所などの各施設が必要です。
互いに連携し合うことにより消費者が利用しやすくなり、それにつれて水素ステーションも増えていくことでしょう。
設置する地域の住民への理解が必要
水素ステーションを建設するにあたっては、近隣住民の理解が不可欠です。
しかし「水素は危険」というイメージを抱いている方はまだまだ多く、建設に反対する意見が多くなっています。
また、燃料電池車がまだ普及しておらず、水素ステーション自体になじみがないため、必要性が感じられないことによる反対意見もあります。
水素ステーションの将来性には期待大
水素ステーションの設置は、世界レベルでの脱炭素化につながる重要な動きで、政府も力を入れています。
近い将来、燃料電池車を利用する可能性も含めて、水素ステーションへの理解を深めておくことは必ず役に立つでしょう。